映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
駅前の本屋
2009年08月01日 / 旅
1976年の夏、私はユースホステルを利用して旅をしていた。永平寺に行くため京福電鉄を待つ、ほんの数時間、福井駅の周辺を歩いているうち、小暗い通りに本屋を見つけた。「百合香書房」の看板を掲げ、三島由紀夫、花田清輝の本が置いてある。そこに大学生らしき客が店主としゃべっていた。その話し方と本の種類から、文学好きだった大学時代の福井出身の友人を思い出した。
かれは私より2歳年下で、高校をサボっては町の図書館に入り浸っていたそうだ。多分そのせいもあって2年間浪人したが、その間にもまた読書に励んだらしい。22歳というのに驚くほど本を読んでいた。私が持ち出すどんな作家の話題にも平然とついて来るーいや、ついて来るどころか、すっと追い越してしまう人に初めて出会った。しかも、作家を語るにはその人の書いたものを全部読むべきだと言い、ヴァレリー全集を読んだと言う。私には歯の立たないサルトルの『存在と無』を「小説より面白い」と言ったのを聞いて、完全にノックアウトされた。
「昔は知っていることを知らないと言うのが粋だった、今は知らないことを知った振りをするのが粋だという。そういう意味でオレなんかは粋の最たるものだろうね」と仲間にうそぶいていた。彼は、そういう過激なしゃべりの一方で、容貌は「ポーの一族」のエドガー風で、額に垂れかかるクルクル渦を捲いた髪に、反り返った長い睫毛と、パッチリとした大きな瞳、蒼白な皮膚に紅くてプッツリ膨らんだ唇、その唇にくわえ煙草で(それがまだ辛うじて認められる時代だった)歩いていた。一部の女子には「いやぁねぇ、デカダンそのものじゃないの」と忌避されていたが、私にはまったく別な風に感じられた。その彼の愛読していたのが、たしか花田清輝だった。
今年が生誕100年と聞いて花田清輝をまとめて数冊読んだが、殆んどは難解で取り付く島がない中に、その「粋」についての発言を見つけた。色々な意味で、22才の彼は花田の影響を受けていたのだなぁ。
25年後に福井を再訪したとき、百合香書房を探したが、当然ながら姿を消していた。駅前に大きい本屋があったので、「ダメで元々」と入って聞くと、私と同年輩の50代後半くらいの女主人は少し考えてから「ああ、ありましたね、文学書専門の本屋でしょ、Sさんと言う人です。今は店を閉めて、自宅にたくさん蔵書を持っておられます。時々はこの店に譲ってくださいます。お会いになりたいですか。」と言った。さすがに辞退したけれど、小さな町らしいこまやかな人間関係だなあと思った。
かれは私より2歳年下で、高校をサボっては町の図書館に入り浸っていたそうだ。多分そのせいもあって2年間浪人したが、その間にもまた読書に励んだらしい。22歳というのに驚くほど本を読んでいた。私が持ち出すどんな作家の話題にも平然とついて来るーいや、ついて来るどころか、すっと追い越してしまう人に初めて出会った。しかも、作家を語るにはその人の書いたものを全部読むべきだと言い、ヴァレリー全集を読んだと言う。私には歯の立たないサルトルの『存在と無』を「小説より面白い」と言ったのを聞いて、完全にノックアウトされた。
「昔は知っていることを知らないと言うのが粋だった、今は知らないことを知った振りをするのが粋だという。そういう意味でオレなんかは粋の最たるものだろうね」と仲間にうそぶいていた。彼は、そういう過激なしゃべりの一方で、容貌は「ポーの一族」のエドガー風で、額に垂れかかるクルクル渦を捲いた髪に、反り返った長い睫毛と、パッチリとした大きな瞳、蒼白な皮膚に紅くてプッツリ膨らんだ唇、その唇にくわえ煙草で(それがまだ辛うじて認められる時代だった)歩いていた。一部の女子には「いやぁねぇ、デカダンそのものじゃないの」と忌避されていたが、私にはまったく別な風に感じられた。その彼の愛読していたのが、たしか花田清輝だった。
今年が生誕100年と聞いて花田清輝をまとめて数冊読んだが、殆んどは難解で取り付く島がない中に、その「粋」についての発言を見つけた。色々な意味で、22才の彼は花田の影響を受けていたのだなぁ。
25年後に福井を再訪したとき、百合香書房を探したが、当然ながら姿を消していた。駅前に大きい本屋があったので、「ダメで元々」と入って聞くと、私と同年輩の50代後半くらいの女主人は少し考えてから「ああ、ありましたね、文学書専門の本屋でしょ、Sさんと言う人です。今は店を閉めて、自宅にたくさん蔵書を持っておられます。時々はこの店に譲ってくださいます。お会いになりたいですか。」と言った。さすがに辞退したけれど、小さな町らしいこまやかな人間関係だなあと思った。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 【映画】夫婦善哉 | 花田清輝 » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |