映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
映画「夏の終り」

2012 日本 114分 DVDで鑑賞 監督 熊切和嘉 出演 綾野剛 小林薫 満島ひかり
原作 瀬戸内寂聴ex晴美の自伝小説「夏の終り」「みれん」「あふれるもの」「花冷え」
【お話】
相沢知子(満島ひかり)は染色家で、妻子ある小説家の小杉慎吾(小林薫)と8年来の関係がある。ところがかつて夫と幼い娘を捨て駆落ちした木下涼太(綾野剛)が現れ、彼ともこっそりつきあうようになる。
女性も仕事と収入があれば結婚せずに、同時に2人の男性と交際することもできる、男性と同じように……。それで幸せになれるとは限らない。しかし幸せは必ずしも人生の最終目的ではない、特に作家にとっては。
瀬戸内晴美が出家したわけが、この映画を見てわかったような気がする。これじゃあいっそのことすべてを放棄して「男のいない世界」にいってしまいたくもなるだろうなあと。知子は世間の道徳の枠に納まりきれない、仕事も気配りもできる活力あふれる女性で、頭がいいから相手の欲するものがすぐわかり、サービス精神でつい目の前の人に好かれそうな言動に走る。ある時はヒステリーも起こすが、基本的に愛嬌のある可愛い女で、甲斐甲斐しく身の回りの世話もする。ただし、好きになるのは弱く空虚な部分を持っている男で、その空洞を満たそうと自分の全精力を注ぎこむ。「男たらし」と言うより「人たらし」と言うべきか、出家後の寂聴にも通じるものがある。彼女の説教は絶大な人気だが、「伝道とは人を口説くのと似ている」とだれか言ったが、彼女こそその好例と言えるかもしれない。
満島ひかりは、小顔で脚長のいかにも現代風の若い女性だ。和装が多いが着付けや仕草に破綻がない。目が大きく子供っぽい顔だ。長い黒髪をまとめているのが、アナ・ムグラリス扮するボーヴォワールに似ている。
小林薫はラクダ色の肌着・無精ひげの売れない小説家で、妻の内職で暮し、愛人の家でせっせと家事にいそしむ、この世に居場所がない男の感じが良く出ていて絶妙の演技である。綾野剛も「シャニダールの花」と撮影は同じ頃だが、少しおかしい科学者から一転、初々しい若者として登場し、2人の恋人は老若とも魅力がある。体質的に似ているし、みょうに仲が良い。ただし、年下男といるときの知子の表情振舞がわがままに見えるのは少し違和感があった。
1950年代の中野区大和町や小田原駅前のようす、ポスター、家の調度、服装など、丁寧に考証している。
映画館の前で脚立に乗って「わが谷は緑なりき」(1950年12月公開)の看板を描いている職人、「カルメン故郷に帰る」1951)のポスター、などは監督がシネフィル※であることを偲ばせる。
この熊切和嘉監督(39歳)「私の男」はこのほどモスクワ映画祭でグランプリ。彼の22歳の卒業制作「鬼畜大宴会」は恐そうで敬遠したが、言葉に頼らず絵で語る、すご腕の映像作家という感じがする。評価 5点満点で4点
※シネフィルとは映画通、映画狂を意味するフランス語。単なる映画ファンや映画好きと言うより「ジャンルを問わず、映画そのものをこよなく愛する」「古今東西の映画を浴びるように見た経験を持つ」として、賞賛の意味を込めて用いられる。映画作家・映画監督達の多くはシネフィルであり、ヌーヴェルヴァーグの面々やマーティン・スコセッシ、デニス・ホッパー、ジム・ジャームッシュなどのアメリカン・ニューシネマ以降の作家達のシネフィルぶりは有名。(Wikipediaより)
綾野剛
→「シャニダールの花」14-6-9
瀬戸内晴美(寂聴)
→「女子大生曲愛玲」6-10-28
→「孤高の人」11-2-8
→「ひとりでも生きられる」9-6-23
アナ・ムグラリス、ボーヴォワール
→「サルトルとボーヴォワール」12-11-18
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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そういう事ってありますよね。見ようとする矢先に、誰かがそれを褒めて、その褒め方が気に食わないために、見る気が失せる、でもいずれまたチャンスが巡って来るのではないかしら。DVDも結構良かったですよ。松江の鑑賞会でも掛けるらしいので、もう一度見るつもりです。ところでこの女優は全然似ていないけれど、寂聴さんは気に入ったみたいで「鬼気迫り、鳥肌が立った」と言っています。似ても似つかぬ美人が自分を演じるのもソックリさんよりも嬉しいものではないでしょうか。だれしもナルシシズムがありますからね。
見たら感想を聞かせて下さい。
大変ご無沙汰しているにもかかわらず、コメントありがとうございました。コメント確認が遅くなり申し訳ありません。
とにかく小林薫はぴったりでした。満島ひかりは素晴らしい女優ですが、美し過ぎて瀬戸内寂聴というイメージではありませんでした。ここは寺島しのぶあたりが適役だったかもしれませんね。
また仰る通り、時代考証には神経が行き届いていたと思います。丁寧に創った女性向けの作品でしょうか。
感性も表現法もケント様と私は似ていると思いました。わざわざおいでいただいてうれしいです。<丁寧に作った女性向けの作品>という御評は、女性を惹きつけるかもしれませんね。むしろ男性向けかと私は思いましたが。家庭の秩序を乱し、公序良俗に反する女性は、むしろ男性に好かれるのではと。あるいは、だれもおおっぴらには認めたくないが、社会の規範に反して生きる、瀬戸内寂聴さんに惹かれるのか。寺島しのぶさんねえ、顔は似ていますが、作家役はどうでしょうか?作家がやれる女優は思いつきませんね。