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課題作文「道に迷う」

さて幼稚園時代の話をもうひとつ。



~~~~~~~~~~道に迷う~~~~~~~~~~~

初めて迷子(まいご)になったのは、五歳の時だ。入園式がすんだ翌日、私は「一人で行く」と言い張った。この企ては、今思えば無謀なものだった。なぜなら、その町に越してきてまだひと月になっていなかったし、それまでに二度しか歩いたことのない道で、いずれも、大人に連れられていっただけだから。幼稚園は子供の足で30分くらいのところで、途中に二回の曲がり角がある。うちを出てすぐのT字路はわかりやすいが、そのあとの十字路で右折しなくてはならないのに直進したのだった。行けども行けども幼稚園は見えてこず、泣きながら歩いているところを知らない人に保護されて、うちまで連れ戻された。そのあと幼稚園に行ったかどうかは記憶に無い。私の人生における初陣は、「青葉の笛」の敦盛のごとく敢えなく挫折、首こそかかれなかったが、面目丸つぶれというところだった。
それまでの私は自信に溢れていた。もう自分の名前も書けたし、六歳上の兄より勇敢で、暗闇も注射も怖がらなかった。また、ずっと遊び相手だった二歳上の姉が入学し、母は生まれたばかりの弟にかかりきりなので、どこか学校のような所に行きたくてしかたがなかった。
 この失敗は、人生最初の苦い記憶として脳裏に焼きついている。この事件には、勇気と独立心、性急さと自信過剰、いざという時の表現力などが現れている。これらの性向が、きょうまで私を導いてくれた。今、泣いているあの時の私に会ったら、「えらかったね」と抱きしめてやりたい。
   課題「道」制作&提出 2007年4月24日 返却 5月16日
【八木先生評】
 人生、いささかの冒険心は必要ですね。万事慎重と言うだけでは、平坦ではあっても平凡な道となります。
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この作品は、文章教室に提出した最後の文章で、その秋には松江に移ったのでひときわ思い出が深い。だいたいが、能力もないのにすぐにじれったがって一人前以上のことをやりたがる性癖は、このころから変わらないようだ。「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」「坊ちゃん」に似ている。ただし親といっても父親は「石橋をたたいて渡らぬ人」という定評があったから、母親のほうだ。それにしても、うちの近く5、6分のところに幼稚園があるのに、わざわざ遠くの幼稚園に入れた母の魂胆がわからない。おかげで、毎朝登園時にその園生とすれ違い、彼女らはまさかこの世の中にほかにも幼稚園があるとは夢にも思っていないらしく、「どこに行くの、先生に言うよ」とマスク警察のように脅す。引越してきたばかりで理不尽な迫害を受けた最初である。~~~→「途中下車」18-1-12→「土蔵と人力車」17-12-23
→「この先危険、立入禁止」15-11-15

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