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【映画】4ヶ月、3週と2日

2007年 ルーマニア 113分 鑑賞 DVD  
監督・脚本 クリスティアン・ムンジウ
出演 アナマリア・マリンカ  ローラ・ヴァシリウ

違法な中絶をする友人を助けるために奔走する女子大生の一日を描いた映画。
ルーマニア映画で初のカンヌ最高賞(パルム・ドール)を受けている。

実を言うとカンヌの受賞作品は肌に合わない。大抵が芸術的・作家主義的で、素人には分りにくいためだ。この映画も、冒頭からいきなり貧しげな内装の一室に連れ込まれ、ここがどこで、この二人の女性のどっちがどれで、何が起きているのかという説明の無いまま、会話を途中から聞かされ、あちこち連れ回される。この辺は、秘密警察を憚って生きる独裁国家の人々の実感のようでもあり、カフカの小説に入り込んだようでもあり、要するにカンヌ映画祭好みの雰囲気になっている。

しかし、見たあと、難解な作品によく感じる腹立たしさは覚えず、殴りつけられたような衝撃で頭がしびれているが、後味は悪くない。特に、このテーマを30代男性監督がよく取り上げたと思う。(そういえば東独の近い過去を描いた「善き人のためのソナタ」も33歳の監督だった)当事者でないからこそ作れたのかも知れないが。

この時代(1987年)のルーマニアはチャウシェスク政権の末期で、人口増加政策のため中絶も避妊も禁止、女性の生理周期が公的に監視される。その上、食料も燃料も不足しているという状況にある。

主人公が駆け回るブカレスト市街は闇が深くやはり「善き人のためのソナタ」を思い出す。

ラテン系なので、そんな中でも人々はそれなりに楽しみを追求する。妊婦は友達をきりきり舞いさせて平然としている。弱者いじめの憎むべき医師が、呆けた老母に会う場面では、彼も大変なんだなと思わせる。ホテルの役人やエリート教授らの自分勝手さも暴露される。

フランスでも少し前まで中絶は違法で、今も米国で禁止の動きもあるのでは、詳しくはないが。カンヌで高い評価を得たのは、まさに人々が直面している、記憶にも新しい問題を取り上げたからだろう。が、それだけでなく映画としての魅力も存分に感じさせた。

助ける女性(アナマリア・マリンカ)は金髪色白で、たった一人で難題に立ち向かう姿には悲壮な中に美しさがある。その男友達は善意ではあるがこの際何の役にも立っていない。恋人でも対立する、この状況では無理もない。

標題の意味が具体的に目の前に現われるシーンは、その名詞を口に出すのもはばかるが、映画でも現実でもこれまで見たことがなく、全く意表をつかれ、茫然として言葉もなかった。
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コメント
 
 
 
コメント・TBありがとうございます! (mezzotint)
2008-10-12 16:49:59
Biancaさん
こんにちは!TB&コメントありがとうございました。中絶禁止、避妊禁止・・・・。女性にとっては
生き難い国だったのでしょうね。当時は個人情報もすべて国が管理?していたのかな?
 
 
 
こんばんわ (にゃむばなな)
2008-10-12 19:49:46
TBありがとうございます。
この時代の窮屈さというのは経験された方にしか分からないものだそうですね。
パルムドールを受賞したのも、あの密告社会の時代にこんなにまで友人のために動く主人公の尊さに、東欧の映画人が心底感動したからだそうですよ。
 
 
 
Unknown (margot2005)
2008-10-12 22:54:59
Biancaさん、こんばんは!
TBありがとうございましした!
身につまされるスゴイ映画でした。
ビョークが主演した「ダンサー・イン・ザ・ダーク」以来の辛い作品かと思えます。こういった作品を見るのは一度きりで良いですね。また見ようとは思わない映画です。
独裁政権を貫き、私腹を肥やし続けたチャウシェスク夫妻の末路は日本でも公開されたので、こんなドラマもあったんだなぁと変に?納得したりしましたわ。
 
 
 
mezzotintoさま (Bianca)
2008-10-13 19:41:55
人が一番秘密にしたい身体情報を国が握り、3人~4人子供を産むまでは中絶を許さないという「子を産む機械」か繁殖用の牛馬なみの人権蹂躙。コンドームもないので、男性と接触することは、非常に危険だったのですね。もっとも昔の日本にもそれに近いことがあったのではと推測していますが・・・
 
 
 
にゃむばなな様 (Bianca)
2008-10-13 19:59:48
TB&コメントありがとうございます!
英雄的な行為だったのですね。道理で、彼女の顔がとても美しく見えました。信じられない自己犠牲ですよね、そこまでしてあの少し足りないように見える女を助ける、抵抗か、それとも愛か、奥の深いドラマです。
 
 
 
TBありがとうございました。 (sakurai)
2008-10-13 20:49:25
カンヌっぽかったですね、やっぱ。
好きですよ、私。ああいうタッチ。
やっぱカンヌだなあと思いを新たにしました。

ああいう政治体制下でも、人々はそう悲観的じゃないんですよね。結構あっけらかんとしてたりして。
でも、そうガードが甘いのはダメだろ!と突っ込みたくもなりましたけどね。
どっちにしろ、いろいろと考えさせられました。

 
 
 
margot2005様 (Bianca)
2008-10-13 23:26:17
お久し振り!新作DVDを偶然借りたんですが、当りでした。margot様はつらかったんですね、多分、男性が誰もロクな奴はいないので、夢も希望も持てないから?・・・しかし、それが世の真実なのかも知れない。映画の中でただ独り、まともなのは主人公ですが彼女が命がけの危険を冒す相手が、アホ娘とは、余りにもかわいそうですが、こういう組み合わせはしかし、よくあることですよね。
 
 
 
sakurai様 (Bianca)
2008-10-13 23:49:17
こんばんわ。「パンズ・ラビリンス」の5月以来ですね。あの時は監督の悪口を言い合ったけど、今度は褒めちぎったりして。>ひどい体制の下でもあっけらかんとしているのは、確かにそうですね。北朝鮮でも、戦前の日本でも。まあ、そこに考えが至らないほど、生活が厳しくて鈍感にならなきゃ生き延びられないということもあるかも・・・ところで、ブログを覘いたら、御町には素敵な映画館があるのですね。どうして、なかなか文化的。山形を見直しました。
 
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