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「父と子」

1862年 ツルゲーネフ著 工藤精一郎訳 新潮文庫1998年

大学を無事卒業したアルカージイは尊敬する親友の医学生バザーロフを連れて帰省する。バザーロフは自然美、ロマンチックな恋愛、詩や音楽などをことごとく軽蔑し、自然科学のみを信奉する。日曜は早朝から解剖用のカエルを捕りに外出する。一方、正反対の立場にある、アルカージイの伯父40代半ばのパーヴェルは「顔立ちは優雅で、品が良く、青年の美しい調和と、たいていは二十歳を過ぎると消えてしまう、地上をはなれて高く飛翔しようという強い憧憬がたもたれていた」。と好意的な描写。アルカージイの父親は、世代交代の時期が来たことを寂しく自覚する。私は子供をひたすら愛し、優しく涙もろい親たちに親近感を持たずにいられなかった。

この作品で作者はバザーロフの中に「二ヒリスト」という、ロシアの将来を作る人間像を創り出した。貴族以外の階級から出てきた、新しい知識階級で、ぶっきらぼうだがなぜか民衆に親しまれる。

余談だが、吸わない父親の前で息子は傍若無人にタバコを吸う。(「コサック」では、ロシア人はタバコを吸うと言ってコサックに嫌われる。)新大陸から伝来した喫煙の風習は、この時代まだ新奇なものだったようだ。同様に砂糖は蜜より高価でぜいたく品だとされる。「砂糖の製法」という本がフランスで出ているという記述もあった。現在の常識では美容と健康のためには喫煙も砂糖も害である。「時代の子」と自称するツルゲーネフは、自然にも社会にも細かく観察眼を働かし、こうして記録してくれているのはありがたい。

またプーチンをほうふつとさせるのが「ロシアの高官たちは、概して部下をまごつかせて喜ぶ癖があった。」というくだりだ。ツルゲーネフは西欧の暮らしが長いから、権力者のこうした面を敏感に感じとる。子供時代虐待を受けていたかれは虐げられるものへの同情心が常にある。

バザーロフは意外にあっさり消える。ツルゲーネフはおそらく彼が隆々と栄えることを好まなかったのだ。

表題のDETI(子供たち)とは「ここに子供がいます、爆撃しないで!」と露軍に訴えて地面に書いてあったあの語ではないだろうか?

 

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