映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
映画「天才画家ダリ 愛と激情の青春」
2008 英西 112分 レンタルDVD 監督:ポール・モリソン 原題「Little Ashes」
出演:ロバート・パティンソン/ハビエル・ベルトラン/マシュー・マクナルティ
ぐにゃりと曲った時計や燃えるキリンの画家、サルバトール・ダリは作品も本人も奇矯過ぎて敬遠ぎみだったけれど、この映画は面白かった。邦題が「天才画家ダリ・・・」なので、ダリの伝記かと思って見始めると、実はロルカが重要人物である事に気づく。原題「わずかばかりの灰」とは、ダリの絵にロルカが付けた名前である。その若い日々にダリとロルカが互いを認め合い、励まし合い、影響し合っていたことを物語っている。
詩人で劇作家のロルカはスペイン内戦が勃発したばかりの1936年8月、38歳の時、フランコ率いる反乱軍に殺害された。1975年まで続くフランコ体制においてロルカの名は禁句だった。死後ずっと封印してきた彼との思い出をダリが84歳で死ぬ直前に語った物を映画化。マドリードの学生館で、ロルカやブニュエルと出会ったのは19歳のころだ。
ロルカより4歳年上で中の良かったルイス・ブニュエルは同性愛嫌いで道で会う二人連れに「ファゴット!」と罵ったり、言い寄ってくる男に足蹴を食わせたりする。軍隊・教会・地主というスペインの支配体制を唾棄した彼も、性に関しては体制派だったらしい。ブニュエルの映画を見るとき今一つしっくり来ない原因は、ここにあったのかも知れない。
いままで知らなかったが、ロルカは同性愛であったらしい。家庭や故郷ではひた隠しにし、罪の意識に悩んだこともあるようだが、詩集にはその傾向が現れていて、友だちは知っていた。
ダリはロルカより6歳下、日常生活でも作品でも天才らしさを発揮していた。デッサンの教室を飛出し、ロルカの後を見え隠れに追いかけるシーンはパントマイムのようでユーモラス。(「サルトルとボーヴォワール」のサルトル役の演技を思い出す)白い服のふたりが自転車を盗んで山道を走り、海辺で戯れるシーンなどは「アナザー・カントリー」「炎のランナー」「モーリス」が彷彿とする。最も印象的なのは、夜の海でもぐって泳ぐシーン。水をすくい上げる指先から青い月の光が滴り落ちるように見える。尤もこれは虚構で、ロルカは泳げず海が苦手だったらしい。
ロルカを演じるハビエル・ベルトランの顔は、本人とそっくりだ。
ダリを演じるロバート・パティンソンは別の映画で吸血鬼を演じたそうだが、若さと繊細さがあいまって印象的である。
ブニュエル役のマシュー・マクナルディは美青年だがふたりの引き立て役で損をしている。
この映画は忠実な伝記というよりは芸術の雰囲気に満ちた一種の青春映画ともみられるし、ゲイの苦悩を描いた映画でもあり、スペイン内戦に至るまでの社会の空気を知ることもできる。得るところの多い映画だ。製作者の芸術と芸術家への敬意と愛情が感じられて後味が良い。
私が20代後半、ロルカがスペインでは禁制だったころ、普段はまったく見ない劇をたまたま人から切符をもらって見たが、それが彼の「血の婚礼」だったのも何かの因縁だろう。
サルバドール・ダリ 1904.5.11~1989.1.03
ルイス・ブニュエル 1900.2.22~1983.7.29
フェデリーコ・ガルシア・ロルカ 1898.6.05~1936.8.19
●ロルカの「血の婚礼」
「わたしの演劇鑑賞史」12-1-15
●フランコ政権のスペイン
「捕われた唇」9-12-10
「サルバトールの朝」12-10-22
「パンズ・ラビリンス」8-5-11
●ブニュエルの映画
「昼顔」 12-9-16
●ダリとブニュエル
「ミッドナイト・イン・パリ」14-8-5
出演:ロバート・パティンソン/ハビエル・ベルトラン/マシュー・マクナルティ
ぐにゃりと曲った時計や燃えるキリンの画家、サルバトール・ダリは作品も本人も奇矯過ぎて敬遠ぎみだったけれど、この映画は面白かった。邦題が「天才画家ダリ・・・」なので、ダリの伝記かと思って見始めると、実はロルカが重要人物である事に気づく。原題「わずかばかりの灰」とは、ダリの絵にロルカが付けた名前である。その若い日々にダリとロルカが互いを認め合い、励まし合い、影響し合っていたことを物語っている。
詩人で劇作家のロルカはスペイン内戦が勃発したばかりの1936年8月、38歳の時、フランコ率いる反乱軍に殺害された。1975年まで続くフランコ体制においてロルカの名は禁句だった。死後ずっと封印してきた彼との思い出をダリが84歳で死ぬ直前に語った物を映画化。マドリードの学生館で、ロルカやブニュエルと出会ったのは19歳のころだ。
ロルカより4歳年上で中の良かったルイス・ブニュエルは同性愛嫌いで道で会う二人連れに「ファゴット!」と罵ったり、言い寄ってくる男に足蹴を食わせたりする。軍隊・教会・地主というスペインの支配体制を唾棄した彼も、性に関しては体制派だったらしい。ブニュエルの映画を見るとき今一つしっくり来ない原因は、ここにあったのかも知れない。
いままで知らなかったが、ロルカは同性愛であったらしい。家庭や故郷ではひた隠しにし、罪の意識に悩んだこともあるようだが、詩集にはその傾向が現れていて、友だちは知っていた。
ダリはロルカより6歳下、日常生活でも作品でも天才らしさを発揮していた。デッサンの教室を飛出し、ロルカの後を見え隠れに追いかけるシーンはパントマイムのようでユーモラス。(「サルトルとボーヴォワール」のサルトル役の演技を思い出す)白い服のふたりが自転車を盗んで山道を走り、海辺で戯れるシーンなどは「アナザー・カントリー」「炎のランナー」「モーリス」が彷彿とする。最も印象的なのは、夜の海でもぐって泳ぐシーン。水をすくい上げる指先から青い月の光が滴り落ちるように見える。尤もこれは虚構で、ロルカは泳げず海が苦手だったらしい。
ロルカを演じるハビエル・ベルトランの顔は、本人とそっくりだ。
ダリを演じるロバート・パティンソンは別の映画で吸血鬼を演じたそうだが、若さと繊細さがあいまって印象的である。
ブニュエル役のマシュー・マクナルディは美青年だがふたりの引き立て役で損をしている。
この映画は忠実な伝記というよりは芸術の雰囲気に満ちた一種の青春映画ともみられるし、ゲイの苦悩を描いた映画でもあり、スペイン内戦に至るまでの社会の空気を知ることもできる。得るところの多い映画だ。製作者の芸術と芸術家への敬意と愛情が感じられて後味が良い。
私が20代後半、ロルカがスペインでは禁制だったころ、普段はまったく見ない劇をたまたま人から切符をもらって見たが、それが彼の「血の婚礼」だったのも何かの因縁だろう。
サルバドール・ダリ 1904.5.11~1989.1.03
ルイス・ブニュエル 1900.2.22~1983.7.29
フェデリーコ・ガルシア・ロルカ 1898.6.05~1936.8.19
●ロルカの「血の婚礼」
「わたしの演劇鑑賞史」12-1-15
●フランコ政権のスペイン
「捕われた唇」9-12-10
「サルバトールの朝」12-10-22
「パンズ・ラビリンス」8-5-11
●ブニュエルの映画
「昼顔」 12-9-16
●ダリとブニュエル
「ミッドナイト・イン・パリ」14-8-5
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