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演劇「さんしょう太夫」


松江市民劇場 11月例会 
11月29日午後6時30分 島根県民会館大ホールにて
演出 香川良成 出演 小林祥子 竹下雅臣
1975年芸術祭大賞優秀賞受賞

いよいよ今年最後の例会だ。予定通り1年で退会する私にとっては6回目、最後の観劇になる。演じているのは前進座だが、有名なその劇団の舞台をみられて幸運だった。

この物語は子供向けの童話「安寿と厨子王」にもなっているし、だれでも知っているだろうから、筋の説明は省くことにする。

この「さんしょう大夫」は放浪の旅芸人が説経節として語ってきた物語を再現している。話には残酷さがそのまま残っており、森鷗外の美化されソフトにされた「山椒大夫」とちがう。

たとえば鷗外では安寿は入水することになっている。(「沼のほとりに小さなわらぐつが揃えてあった」という柔らかな表現)が、劇では山椒大夫の息子、三郎に責め殺されて死ぬ。火責め水攻めが舞台上でリアルに演じられる。
また鴎外によれば、厨子王が出世して丹波の国守になって奴婢解放令を出したので、山椒大夫は一時は損失を感じたが、のちのち家運隆々として栄えて行く。しかし劇では、たちがはやし立てる中で大夫は処刑される。

鷗外が違う描き方をしたのは、家父長としての保守性ゆえ、社会秩序が安定して支配層が栄えることを望んだこともあるが、何よりも詩人としての繊細な感性で、原話の残酷さに耐えられなかったのだろう。グリム童話もそうだが、民衆というものは厳しい生活のなかで、残酷な扱いにさらされており、残酷な話を聞くことを好む。また前進座としてみれば、小林多喜二をはじめ特高警察によって拷問され殺されたりした例が、実際に身近にあったということもあるだろうし、1970年代なかばという時期からして文化大革命の影響もあったのでは。

さて10数年まえ私が住んでいた井の頭2丁目から、歩いて10分強の吉祥寺南3丁目に前進座はあり、何度か映画を見に行ったし、地下の食堂もおいしく安かった。司馬遼太郎の「ひとびとの跫音(あしおと)」にも「♪若者よ、体を鍛えておけ」の作者ぬやまひろし(西沢隆二)の妻・摩耶子が「前進座のごはん炊きをしていた」とある。このように日頃から何かと親しんでいた前進座だが、劇は今度はじめて見た。もともとは歌舞伎劇団だったというその伝統のすごさを感じ、演技・音楽・衣装・美術など隅々まで磨き抜かれた舞台で、ただ感服するのみだった。(私ごときが軽軽に批評など口にできないような迫力があった)

→ 映画「山椒大夫」9-10-31
→「石見への旅」  9-7-5
→「釦鈕(ぼたん)」 7-9-2
→「名前を呼ぶこと」11-11-16

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