いのちの煌めき

誰にだって唯一無二の物語がある。私の心に残る人々と猫の覚え書き。

けい子さん

2023-04-01 02:03:00 | 日記
けい子さんは80代後半、女性。小柄で色白。上品な顔立ちをしている。足腰が弱ってこられたので、最近はシルバーカーを使って歩行している。このシルバーカーを使う事をとても嫌がっていた。が「息子さんからのプレゼントですよ」と説明すると、納得してくれた(本当はそうではない)。自営業を営んでいた働き者の旦那さんのことが御自慢。10年以上前に亡くなってしまったけれど、旦那さんのお陰で経済的な苦労はなかったと、よく話してくれる。

他府県に住んでいる一人息子さんがおられ、この息子さんのこともよく話される。孝行息子だと、けい子さんは言うが、実際、滅多に面会には来ない。特に奥さんや孫さんは一度も訪ねて来たことがない。また、けい子さんも話題にしない。それでもけい子さんは、日曜日になると必ず「今日は息子が訪ねて来ますから…」と言う。

けい子さんには、同じテーブル席に座っている和子さんというお友達がいる。和子さんには、わかりやすく表の顔と裏の顔がある。そして2人が一緒になると裏の顔、ワル和子とワルけい子がパワーアップする。他の入居者様の悪口が全開になるのだ。あることないこと、、すごく意地悪な話しを延々としている。

でも、けい子さん一人だけの時は、そんな事はない。元気な時は詩吟を嗜んでいたことや発表会のこと、旦那さんの商売を手伝っていたことなど、楽しそうに話してくれる。カラオケも上手で、小さな体からは想像出来ないような立派な声が出てくる。私のフルートの演奏を聴いてもらった時も、すごく喜んでくれたけど、イジワル和子さんに「もう行くで!」と無理やり部屋へ連れ戻されて、とても名残惜しそうにしていた。けい子さんはきっと、もっと聴いていたかったに違いない。

人の心には色々な側面があると思う。強さも弱さも、悪心も良心も。だからこそ、いつも側にいる家族や友達の影響って大きいんだろうな…と、けい子さんを見ていていつも思う。