美代子さんは80歳代後半、女性。気管切開をしているため、発声ができない。慢性的に食も細く、虚弱体質。認知症はない。
大抵、部屋でTVを観ている。気分転換に買い物等の外出援助を提案しても、あまり喜ばれない。入浴は好きだか、男性介助は絶対拒否。切開した喉の穴から、お湯が侵入しないように注意しつつ洗身介助を行う。
美代子さんの御主人は、10年位前に他界されている。子どもさんはいない。
一度、妊娠したことがあったが流産した、と筆談で教えてくれたことがある。
その時、御主人はポロポロ…と涙をこぼしたと。
美代子さん自身の気持ちは、聞かなかった。
大相撲が好きで、各場所がある時期はTV観戦にも熱が入る。時々、友人が訪ねて来られて、ランチに連れ出して貰ったりもしていた。
そんな美代子さんがある時、さらさら…と紙に書いてくれた言葉が、今でも私の心に残っている。
「80年なんて、アッという間。ボロクソや。」
美代子さんは今年の始め、新型コロナに感染後、数日で他界された。
私は美代子さんの「人生なんて、アッという間」という言葉が忘れられない。