光子さんは80代、女性。京人形のような面差しのふっくらとした色白美人。おしゃれで、いつも綺麗な色の洋服を着ている。アクセサリーも大好きで、大きめのパールの首飾りをよく掛けている。
身体の麻痺はない。認知症の進行具合は中程度。徘徊の症状はあるが、おとなしい人だ。
旦那さんは光子さんより年上だが、お元気そうで、よく訪ねて来られる。会社経営をしておられる御家族は、今も裕福。でも、旦那さんは支配的。今でも、命令口調で光子さんにアレコレ指示を出したり、時には怒ったりもする。認知症の人に怒っても、実りはないんだけどね…。
光子さんは私と二人きりの時には、こっそり色々な話しをしてくれる。
子どもさんは二人いて、二人とも優秀な大学を出ていることや、自分は旦那さんの会社を手伝っていたのではなく、化粧品の訪問販売をしていたことなど。昔は、そういう化粧品がよく売れたそうだ。光子さんは商売上手で何千万も売り上げを上げたらしい(認知症の人の話しだから、本当かどうかは定かではない)。でも、まんざら全て嘘でもなさそうだと私は思った。「たくさん稼いだお金で、何をしたの?」と問うと、光子さんは「彼氏にあげた」と教えてくれた。
彼氏は、タクシーの運転手をしていた年下の男性。奥さんのいる人だけど、優しい人だった。化粧品の訪問販売の時、彼のタクシーを使うことが多かった。いろんな所へ、一緒に出掛けて楽しかったけど、代金はいつも光子さん持ち。それが、どの位の期間、続いたのかはよくわからない。ただ、最後は相手の奥さんが光子さんの家に乗り込んで来て、全てのことが白日の元に晒され、関係は終わった。
光子さんは、これらの話しを少しずつ教えてくれた。話した後「今日は、内緒の話し、いっぱいしたなぁ…」と小さく笑った。嬉しそうだった。