かつ子さんは70歳代後半、女性。両上下肢に多少の麻痺がある。立位は可能だったり不可能だったり、何と言うか、、かつ子さんの気分次第。ギロリッ…とした目で人を見る。どちらかというと色黒。身体は小ぶりで太っている。
鞠のようにコロっとした掴みどころのない体は、移動移譲介助がしにくい。しかも、かつ子さんはその時々の気分で、わざと体の力を抜いたりする。つまり介護者を戸惑わせ困らせるため、故意に体を脱力させるのだ。不意打ちを喰らって、よろめいたりすれば、「痛いよー!」と間髪入れずに悲鳴を上げる。そうする事で、常に相手より優位に立っていようとする。特に新人職員への当たりはきつい。
言葉で、相手を思い通りに動かすことが、かつ子さんにとっての最重要課題。他人を支配することとコントロールすることに執着している。
そのためには「動かない体」というのは、とても都合がいい。だから、動かせても、動かさない。そして実際、どんどん動かない体になっていく。
最終的にかつ子さんは介護度5になってしまった。普通、介護度5の人の排泄介助はオムツ対応だ。ところが、かつ子さんはポータブルトイレへの移動介助を要求する。私達も出来るだけ、かつ子さんの希望に沿うよう全力でサポートさせてもらうのだが、かつ子さんは介助後、5分も経たないうちに「また、ポータブルに座らせて」という。かつ子さんが就寝している時以外は、そういう事が昼夜を問わず繰り返される。私はかつ子さんがそういう方法で、相手の自分に対する忠誠心のようなものを計っているのではないか?と思った。
支配する人か、支配される側か、、
かつ子さんの人間関係には、その二択しかないのだろう。
思いやりを持って人と接し、信頼しあって、和気藹々と過ごすような関係は、かつ子さんの生活にはない。
それとも、支配者側にいなければ、酷い目にあうと思い込んでいるのだろうか。
私はかつ子さんをポータブルトイレへ移動させながら、いつも、そんなことを考えてしまう。