安藤宏著『「私」をつくる』(岩波新書)を読み始めたところ、次の箇所に出会う。
「おそらくはこうした矛盾するシグナルにこそ、虚構が虚構たるゆえんが隠されているのではないだろうか。」(演技する「私」)
ミスプリントでなければ、「虚構」と「虚構たるゆえん」とがともに「隠されている」にかかり、文脈を辿るうえで混乱を読者に与えている。読解を阻む要因は意味レベルの違う要素の並列であり、理解を図るためにはどのように言い換えるべきか。
「虚構が虚構たるゆえん」であるはずもなく、「虚構が」の格助詞「が」を「の」に置き換えることで文脈は正しく通るようになる。
「虚構の虚構たるゆえんが隠されている」という言い方に改めることができる。
あるいは「虚構が」を贅語として削除することで読解の障壁は排除できる。
「おそらくはこうした矛盾するシグナルにこそ、虚構たるゆえんが隠されているのではないだろうか。」
書き言葉としては「虚構の虚構たるゆえん」という言い換えが妥当であると思われる。
岩波新書担当者のチェックミスであると考えるべきか。
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