《落日菴執事の記》 会津八一の学芸の世界へ

和歌・書・東洋美術史研究と多方面に活躍した学藝人・ 会津八一(1881-1956)に関する情報等を発信。

小津安二郎の審美眼@茅ヶ崎市美術館

2023年11月04日 | 日記
茅ヶ崎市美術館に『小津安二郎の審美眼』展を見に出かけた。

小津安二郎の作品『秋刀魚の味』に八一の作品が小道具として用いられていることは、以前書いたが、それをまた見ることができた。

八一の書は、歌集『鹿鳴集』の「印象」の一首であった。印象は中国古代の詩を八一が和歌に翻案したもの。

耿湋作
返照入閭巷 憂来誰共語
古道少人行 秋風動禾黍
八一歌
いりひさすきびのうらはをひるがへしかぜこそわたれゆくひともなし

漢詩は秋のきび畑全体の印象を詠うが、八一は和歌に翻案するにあたり、一陣の風をクローズアップして、静物画的な漢詩を、映像化しており、見事な出来栄えである。


それにしても小津安二郎の本物志向には驚かされる。一瞬映るだけの絵にも大家のそれを使わないと気が済まない巨匠のこだわりはたいへんなものだ。

『小津安二郎全日記』の1953年3月8日の項には、『表具が来て会津八一の軸を持つてくる』との記述があり、小林正樹監督を通じて、八一の作品を手に入れたことがわかる。

茅ヶ崎にはかつて、小津が贔屓にした旅舎があり、その縁で本展覧会を開いたようだ。

かつての茅ヶ崎の海岸が映画のロケ地にも使わらているという。
この茅ヶ崎は、蓼科と並んで小津安二郎の留魂の地なのだろう。













美術館のそばにあるカトリック茅ヶ崎教会。この建物も小津好みだと思う。