〈川俳会〉ブログ

俳句を愛する人、この指とまれ。
四季の変遷を俳句で楽しんでいます。「吟行」もしていますよ。

拾い読み備忘録(23)

2016年01月21日 21時05分30秒 | 小説
夢の中での日常
……私は思い切つて右手を胃袋の中につつ込んだ。そして左手で頭をぼりぼりひつかきながら、右手でぐいぐい腹の中のものをえぐり出そうとした。私は胃の底に核のようなものが頑強に密着しているのを右手に感じた。それでそれを一所懸命に引つぱつた。すると何とした事だ。その核を頂点にして、私の肉体がずるずると引上げられて来たのだ。私はもう、やけくそで引つぱり続けた。そしてその揚句に私は足袋を裏返しにするように、私自身の身体が裏返しになつてしまつたことを感じた。頭のかゆさも腹痛もなくなつていた。ただ私の外観はいかのようにのつぺり、透き徹つて見えた。そして私は、さらさらと清い流れの中に沈んでいることを知つた。その流れは底の浅い小川で、場所はどうも野つ原のようである。…・・
「島尾敏雄作品集 第1巻」 晶文社 昭和36年
                         富翁
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