メキシコはおそらく―ゴーギャンにとってのタヒチ島のように―失楽園の夢を託するにふさわしい場所であったのだろう。フランスではブラッスール・ド・ブールブールの著述のおかげで、またメキシコにたいするフランスの干渉に参加した目撃者のおかげで、初めてインディオの呪術の力や想像的な力の啓示を受け、征服者(コンキスタドール)のすばらしい冒険の中のいかなる些細な行動も、この原初の民の神秘や秘密と混ざり合っているかのような感じがして、読者は魅了された。現在われわれが、D・H・ローレンスの小説やジャック・スーステルの『メキシコ、インディオの大地』や、フォン・ルルフォの暗く、ほとんど神秘的な物語を通じて接しているのは、メキシコにおける夢の最後の様相であろう。
「メキシコの夢」ル・クレジオ著 望月芳郎訳 新潮社 1991年
富翁