こんばんは。
声がでない、というのはなかなか不便である。
電話では何も伝えることができない。
家族なら、声が出せないのよ、ということが理解できれば紙とペンを持って筆談したり、首を振るだけで答えになるよう質問を工夫するなどしてもらえる。
でも外出先の通行人や窓口では、そのたびに説明するのはいささか疲れる。まず自分が疲れる。
また説明しないと分かってもらえないんだ、と。
私はタクシーなんてなかなか乗らないけど、天気がいい日や体調のいい日を選んで区の総合施設へ出向いて、もしも疲れたら、帰りはタクシーを使うという高齢者であればどうだろうか。
総合施設に行ってお友達に会ってもお話しできない、お友達とはおしゃべりが一番楽しいのに。
タクシーに乗っても、たった一言で自宅へ連れて行ってくれるのが便利で気軽なところなのに、メモを探し、ペンを探し、身振り手振りで伝え、行き先を書いて示す。重い体を後部座席に沈め、ため息が漏れるのを止められない、そんな様子じゃなかったか。
お姑 とこ のことだ。
先日会った時には少し声が出るようになっていた。
風邪をひいた、こじらせた、といって、10月末の級友たちとのお出かけも、やめた、と言っていた。
病院もようよう行けない様子。食欲はあまりなくて、薬を飲んだかどうだか記憶があいまいだという。夫も私も不安になった。
うちへ来て、必死で言うのには、区の総合施設や合唱のサークルでお友達になった方に、連絡を入れたいという。
約束していたの、と。それで、携帯の番号へ息子たる夫がその方へ電話したが、出ていただけず、留守電になるという。
夫は留守電へメッセージを入れたが、そののちも とこ の携帯へ何度かその方から連絡が入っているという。
とこ は声が出ないのでその電話に出ることが出来ない。
22時をまわったかという遅い時間だったが、とこ の希望なので、ご自宅へ とこ 本人の目の前で電話をした。
しかし夫がかけたご自宅への電話では、先方は疑っているようで、適当な返事を返すだけだ。
とこは必死に「住所」と書いてペンでその文字をカンカン叩く。とこには電話向こうのその方の声の調子が聞こえないようだ。
私や夫には、その方の声はとてもいぶかしんでいるという状態に、どうしても聞こえた。
自分は とこ なにがしの息子である、総合施設によく行っていて、いつも●●さんには良くしていただいて、ありがとうございます、母が今ちょっと風邪をこじらせて、声がでないというので、本人今ここにいるんですけど、何度かお電話もいただいていますけども電話でお話しできないので、代わりにご連絡しているのです、手紙を書きたいと申しており、住所を教えていただきたい。
ゆっくり、丁寧に夫は伝えた。
…でもね。いやぁ、もし私が逆の立場なら、教えないねぇ。
その方は、はい、はい、と柔らかい応答ながら、
おかあさまに、元気になられたら、また総合施設でお会いしましょとお伝えください、
と、返されてしまった。
無力だ。
私は途中で夫の電話を奪って代わってやりたかったが、同じ結果であるかもしれず。
遅い時間であるし、こういってはなんだが、…仕事でもないのに今度のサークル(もしくは何かイベント)でご一緒しましょうという
約束を反故にしたとしても、実害はないのではなかろうか、と思ってしまう。
なんとなく、とこ の思う温度と、その方や私たちの思う温度が違う。
携帯の電話番号が分かるなら、ショートメールが受信可能な場合もある。夫はそうしようか、とも言ってみた。
とこ は弱弱しく、しなくていい、と紙に書いた。
しかし、もうなんだか、その とこ の「声がでない」も怪しく思えてくるのだ。
こののち、とこは急にそれまでのいろいろな主張をひっこめ、翌週、夫といつものかかりつけの内科へ行き、
耳鼻咽喉科での診察を勧められた。ややあって、近くのとある総合病院の中の耳鼻咽喉科の診察時間を調べてくれと言ったので、
その勧めを受け止めたようだった。
少し落ち着いたのかなと思う。
元気で居てほしいのだ。
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