通勤時、いろいろな人がいるので、時折観察することもある。
あんまりジロジロと見るわけにもいかないが、電車内の朝の女性のお化粧は、思わず、ほほぅ、と見入ってしまうし、同じ時間帯で同じ降り口に乗る子連れの女性が、幼子を抱っこしていたのから手つなぎになり、成長していく数年来の様子などは、逆にこちらが応援されるような気持になったり。
さて。
今回の人。男性3人。
帰り道、風が冷く、ホームで待っている間にすっかり凍えてしまったその日。電車に乗り込んで、二駅目で下りるためにいつも降車側のドアの両側どちらかに立つようにしている。ドアの左側、進行方向に対しては後ろ側に立った私。進行方向を向いて立ち、後ろの座席の手すりに寄りかかる。スマホ画面を操作しだして、ふと、進行方向側に立っていた男性が、うなだれていて、どうもすすり泣いているらしいことに気が付く。【泣く男】
「…うっ、…す、…っふ… …」
声が漏れているのだ。
イヤホンをしていて、白いケーブルが両耳から下がっている。確かに泣いている。私が下りる駅に近づいて一層、押し殺した声ながら「どうしてこんな…」みたいなことを言っているように聞こえた。
…、かかわらないようにしよう。髪は少しぼさぼさで、スーツを着ているように思えたが、これは見ないほうがいい、と感じた。
付近にはほかの人も乗り込んできていたので、泣いている男性と私の間にはほかの人が数人立った。
下りる駅のホームではすぐエスカレーターがある。ドアが開くと、人の群れをかき分け、泣いている男を後にした。
同時ぐらいにホームに降り立ったがっしりした黒コートの男性。ガタイがいい感じだが老齢だ。
そして、私と同じほうの足を痛めているらしく、びっこをひく。【びっこの男】
まさに、数か月前の私だ。エスカレーターのそばに降り立つ必要があったのだ。
老人はびっこをひきながら、急いでいる様子でエスカレーターを下りていく。私はこういうの、追い越したくなってしまうが、追い越せずに、エスカレーターを下りて、その先の地下連絡通路の入り口あたりまでその人の後ろを歩くことになった。
地下連絡通路の手前は、四方八方のホームからの下り階段や、隣接する私鉄の改札があり、濁流のように人が集まってその通路へ入っていく。老人の後をついてきていた私は、その通路の前あたりで老人を追い抜いた。入れ替わるように、私の右隣を駆け抜けた奴がいる。階段なので、足元を見たら、そいつの靴は結構いい感じに磨きこまれた茶色の革靴だった。しかし、背丈に似合わず靴がでかい、というのが第一印象。失礼ながら、私と同じか低いぐらいの背丈でありながら、私より太っていらっしゃる印象だ。
そいつが、なぜ、私の目をひいたのか。【吠えくさめ男】。
いやはや、花粉症になっていない方がいると羨ましい昨今である、その日、肌寒いし、乾燥しているし、続くくしゃみに私も悩まされた。ハンカチ・ティッシュが手放せない。茶色の革靴の小太りなそいつもそうらしい。
ほんの長さ十数メートルくらいの地下通路、天井もさほど高くなく、総幅5~6メートルで、ここでくしゃみしたら、ちょっと響く。それが、その男、吐き捨てるというか、吠えるように、まき散らすようにくしゃみをするのだ。
その通路を過ぎる間中、ずっとくしゃみしてた。すれ違う人の流れの中から、「うるせぇ!」と言われるほど。
あきらかに、花粉にいらついていて、抑えようとするどころか、発射するようにくしゃみをすることで、花粉が吹き飛ぶとでも思っているかのよう。確かに、苛ついて、うるさい!と言いたくなる「くさめ」であった。
自分に同情してくれというような、いやらしさである。
もしも、今私の目についたものが、私の鏡なら。
何かのせいにして、一人、辛気臭く泣き暮れているのか。足を痛めたのに、せっかちを直そうともせず、びっこで歩いている。
他人の迷惑も顧みず、怒りを振りまいている、のかもしれない。
気をつけねば。
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