キッチンハイターを飲んだ男

昨年夏に異動して半年。
全部で６ある営業部の間で異動した私。

前の営業部では、とある課長がいらして、
新たに内勤営業となったため手配方法などこちらから伝えたり、
逆に業務について相談したり、という状態だった。
その課長、M崎課長である。50代だ。

もともとは営業職だった方で、ライン課長ではなくなって内勤営業へと移ったのだ。
うちの業務は、印刷あり、上場企業の情報開示ありの会社。
印刷についての知識もさることながら、上場企業特有の、
官庁への提出書類についての知識もそれなりに必要だ。

内勤営業は顧客の問い合わせに返答し、提出書類の作成・提出についてサポートする。
営業は仕事を取ってくるが、取った後は内勤に託すこととなるため、
内勤営業と営業担当はちょっと異なったスキルが必要になる。
当然知っているべきことが少し違ってきてしまう。


周囲に比べて、私自身と年齢が近いためと、
さらに私の夫とM崎課長はほぼ同年代であることは話し済みなので、
M崎課長も親近感を持ってくれたのかもしれない。
仕事中、手が空いた時など、何気にふと漏らした彼のご家庭での話はどれもクスっと笑える話であった。

「あっ、今日っ、今日ね、うちの奥さん習い事で家に居ないんだよねっ、だから犬当番なんだよね」
と、そそくさと帰り支度をするM崎課長。（時どきは、私に残り仕事を託される…）
「お疲れさまでーす…」
…そうなのね、犬飼ってるのね。奥様が習い事に行く日は、犬当番を代わるのだそうな。
まぁ、奥様想いでいらっしゃるのねぇ。


ある時は指に絆創膏を貼っていらっしゃる。
こちらは特に気にも留めてはいなかったけれども、
私が見ているように感じるのか、ふと急に、おっしゃる。
「いや～、噛まれちゃってねぇ」

…飼い犬にナメられているのか…？、いやむしろ、もろ、飼い犬に手を噛まれている？？

M崎課長、やさしい感じだしな～。。
言うべきときはもちろん、びしっと（ちょっと嫌味っぽさ全開で）言ってるけどね！

部の飲み会では、お酒はあまり飲まれない感じであったのを覚えている。
上司が出席するので仕方なく、参加している感じだ。
家ではもっぱらコーヒーなのだそうな。
お子さんはいらっしゃらないとのこと。
スマートな体形を保っているが、（ごめんね）頭髪は年齢相応でバーコード様の毛髪をふんわりとセットしてある。
発声は営業そのもので、よくとおる美声で、
出社時の「おはようございます！」には大変に好感を覚え、
一方帰る時の「おさき～」にはいささか不安を思うのであった。
なんかやり残したり、間違って手配しているのでは？？と。

ある時、ほかの営業担当が、「これ、M崎課長の、画像です」と見せてくれたスマホのデータ。
「タイトルは、『仕事中』、なんです」という。
顧客先へ同行した際待ち合わせの時間に、とあるビルのエントランスホールのスツールで、
座ったままうたたねしている画像であった。
そんな姿を撮られるなんて…、ゆすりのネタなんだろうか。


一番ショッキングな話題が、これだ。

寒さが続いていたある日、つぶやくように云うには、
「いや～、風邪ひいててさ、クスリを飲もうと思って、キッチンの湯飲みの水で飲んだら、
　その後、なんかおかしいんだよね～」

…は、はぁ、大丈夫ですか？

「そしたらさ、（奥さんが）その湯飲み、キッチンハイターはいってたのにっていうんだよね、」

　　えっ……！！（食道、焼けただれてる？！）

「なんっか、その後おかしいんだよね～」

ふ、
普通はそれでは済まないのでわッ？！


絶対言えないんだけど。
私は心の中で言った。

　M崎課長、

　　っていうかー、奥さん、それ、わざとじゃないですか？？

うちの夫の見解は、
当然、毎日ちょっとずつ仕込んでるに違いない、という見解であった。


　　　だ、　よ、　ね～


その湯飲み、半分くらい入っていたらしいので、てっきり水と思って薬を飲んだらしい。

私なら、漂白するなら満タンに水を張って、シンク内に置くのになぁ。

シンク脇の作業台に置かれていたようなので、そら飲んじゃうかもね。
にしても、M崎家、おもろすぎる。。


このようにさまざまな横顔を拝見しているM崎課長。
他の部署となってしまったので今やたまに廊下ですれ違うくらいだ。
先日すれ違った時、少々顔色が悪いような、と思った。

仕事始めの月曜日、休みだったそうで、今日聞いた時、そういえばと思い当たった。
前の部署の人に聞いた内容では、

「なんか、詳しく知らないけど、
　年明け緊急搬送されて、脳こうそくとかそれっぽかったらしいよ。
　今日になって本人から連絡あって、一般病棟に移れたから、まぁ大丈夫なんじゃないかナ」

って、どうした～！　

　M崎課長っ！、一体、どうしたんだ～！！！

たいして意味なく動揺してしまったが、
詳細わからないが、大事ないようで、よかった。

（別のところでも体調悪い話を聞いたので、私含め、あっちもこっちも大変だな！と思った次第。）

夫曰く、「やっぱり、ついに奥さんにやられたな」と、
M崎課長と同様の懸念をひそかに抱いている？ようであった。

「きっと犬も…　ドンファンのように…」いやいや、覚せい剤とかないから。。

ともあれ。
早期の回復願う。