「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」(在原業平朝臣)
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人々の心を騒ぎ立てながら、桜の花はあっという間に北上して行ってしまった。南信州「伊那谷」の花々は、次のステージが始まっている。
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「百々目木川(どどめきがわ)」(長野県駒ヶ根市中沢)沿いの「花桃の里」に咲く約830本の「ハナモモ(花桃)」や「チョウセンレンギョウ(朝鮮連翹)」などが見ごろだ。
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また、「国指定名勝 光前寺庭園」(長野県駒ヶ根市赤穂)では、古く山岳信仰で山の精霊の化身とされて来たという「シャクナゲ(石楠花)」も華やかに開花している。
❖ 中沢 花桃の里
2016(平成28)年に故人となった「休み処 すみよしや」の先代オーナーが、1990(平成2)年頃から山間を流れる「百々目木川(どどめきがわ)」沿いに、一人で苗木を植えはじめたことから「花桃の里」が始まったという。シーズンには、川沿いの傾斜地を約830本の「ハナモモ(花桃)」が彩り、写真撮影のスポットにもなっている。
❖ 宝積山光前寺
中央アルプス山麓に広がる天台宗「別格本山」の「宝積山(ほうしゃくざん)無動院(むどういん)光前寺(こうぜんじ)」は、天台宗信濃五山に数えられた比叡山延暦寺末で、「大日如来(だいにちにょらい)」の化身とも言われる「不動明王(ふどうみょうおう)」が本尊だという。
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四大絵巻物とされる国宝「伴大納言絵詞」の題材で、大伴氏没落と藤原氏摂関政治確立のきっかけとなった事件とされる866(貞観8)年の「応天門の変」と同時代の860(貞観2)年に、第3代天台座主「円仁(えんにん)慈覚大師(じかくだいし)」の弟子「本聖上人(ほんじょうしょうにん)」によって開基されたとする。時代は、905(延喜5)年奏上「古今和歌集」や935(承平5)年頃の成立とされる「土佐日記」、あるいは10世紀半ばまでの成立とされる「竹取物語」などから遡ること半世紀から1世紀前のことだ。
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その古刹を舞台に語り継がれる「早太郎(はやたろう)伝説」は、かつて「市原悦子」「常田富士男」の語りによりTBS系列で放映された「まんが日本昔ばなし」でアニメ化されたという「猿神退治伝説」で、遠州府中(現在の静岡県磐田市)の人身御供を要求する妖怪を退治する説話だが、平安時代後期「天永」から「保安」年間(1110~1124年)に成立とされる「今昔物語集」の「巻二十六 美作國神依猟師謀止生贄語」や鎌倉時代「建保」から「承久」年間(1213~1222年)の成立とされる「宇治拾遺物語」の「巻第十ノ六 吾妻人生贄を止むる事」などに収録され、各地でも語り継がれる説話のご当地版だ。
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妖怪との戦いで息絶えたとされる光前寺で飼われていた山犬「早太郎」の供養に、「一実坊弁存(いちじつぼうべんぞん)」が奉納したとする「大般若心経」が、寺宝として現在に伝わるといい、本堂脇には墓として「早太郎」が祀られる。
❖ ハナモモ(花桃)
花を観賞する目的で品種改良された中国原産のモモで、結実した実は食用には適さない。各地で「桃の節句」(雛祭り)に飾られるが、長野県では開花がサクラより遅く、4月中旬以降に見ごろとなる。花の色は「赤色」「桃色」「白色」「紅白咲き分け」がある。
❖ チョウセンレンギョウ(朝鮮連翹)
葉が出る前に枝から直接鮮やかな黄金色の四弁花を咲かせる朝鮮半島原産の「レンギョウ(連翹)」で、葉縁に鋸歯があるが、果実は民間療法で消炎や利尿、解毒などに効くとされている。
❖ シャクナゲ(石楠花)
花の色は白色あるいは赤系統色が多いが、黄色もある常緑広葉樹で、世界のきわめて広い範囲に非常に多くの種が分布する。葉に痙攣毒を含む有毒植物で、「威厳」「荘厳」の他に「警戒」「危険」などの花言葉がつけられているという。
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