劇団夢桟敷「週刊月曜日」
〈第11号 2022.03.21発行〉
https://yumesajiki.jimdofree.com/
■遊戯療法(8)play therapy
登場人物
Egg head man(卵頭の男)
男「突然ですが、
サイレントキラーとはボクの蔑称です。
蔑称、蔑称!裏のネームです。
黙っていると殺し屋のように思われる。
プロではなかった。
残念ながら弁解する言葉が見つからないのです。
ネームに心当たりあり!
悪い虫が産まれそうです。
危険人物と思われ、ボク自身も危険です。
その自覚症状は…」
(間)
ト 泣こうとするが涙が出ない。笑おうとするが顔が引き攣る。
怒りを込めて「コラ!」と拳を上げるが…
声も出ない。詰まると何も出なくなる。
口をパクパクと開けたり閉じたりする。
次第に大きな呼吸になる。
大きく空気を吸い込んで、ゆっくり大きく吐き出す。
頭が大きく膨れてふらつく。
男「頭がタマゴ型になってしまった。
コンピューターに挟まれてからのことだった。
うっかり蓋を開けて覗き込んだら吸い込まれてしまった。
この頭をどこかに投げたくなるが、標的が見つからない。
卵は爆発するか?
頭に爆弾を抱えている。
高熱を発す。電気が走る。
誰かがボタンを押すのを、今は静かに待っている。
(間)
ボクだ。押すのはボクか?
何故、ボクでなければならないのか、その理由がわからない。
何が起こるのかわからない。
症状はわからない病に犯されていることに気づいた。
気づいたのが遅かった。
(間)
ト 指を天に向ける。ゆっくりとコンピューターのボタンに落とす。
空が割れたような大きな音。
イメージは核爆発。逆光が世界に突き刺さる。
ピカッ、ピカッ、ドン、ドン。
目が眩むような闇。
闇に包まれる。
男「何もかもがなくなってしまったんだね。
ボクは世界からとり残されてここに立っている。
ここは何処だろう?
不思議なことに!
ここが人類滅亡の地球と思えば、その通りに見える。
いや、世界も消えてしまった。」
ト 赤児が産まれて第一声の泣く音。
※削除ボタンだった。
忍者だったら「ドロン」と言って煙幕で消える。
鉛筆だったら消しゴムで言葉がなくなる。
タマゴアタマノオトコはボタン一つで消えた。
目の前の世界が同時に消えてしまったのだった。
これを便利で都合の良い時代だと誰が呼ぼうか?
取り残された男は不敵な笑みを浮かべて目を覚ます。
今、産まれたてのホヤホヤ、新しい命に希望を託そう。
しかし、多くを期待しない方が良いだろう。
負担は軽いに限る。
付け加えるよりは削る方が厄介だから。
厄介、厄介!表のネームです。
まんざら悪い虫ではなかったのだよ。