虫の息
時計
逃げる
ドア
ボトルシップ
赤へ
どこかの庭で
十三人目の行方不明者
母のこと
雨
死をめぐる10編の短編集。
近しい人の死が、さざ波を立たせます。近いければ近いほど、波は大きな波になります。
自分の心に、相手の心に、亡くなった人への悲しみとは別に、生きている人へのざわざわとした言いようのない黒い感情。
そういう感情が、まっすぐこちらへ届いてきて、私自身も不穏な気持ちになります。
なので、いつ読んでもオーケーという物語ではありません。
絶好調、まではいかないまでも、それなりに調子が良くて元気な時に読むべき本です。
死が続くことが、次第につらくなってきます。死が続くことに加えて、生きている人物の生きるつらさが、余計につらくさせます。
その中で、「虫の息」にはちょっと救われます。イクちゃんの号泣、よくわかります。
生きていてくれた、そのほっとした安堵感は、この本の不穏さの中にあって貴重です。
生きていてくれるって、本当にありがたいことですね。
本文より
ひとりの女が死んだ。その責を分かち合う者を失う恐怖だ。