猛獣ども / 井上荒野

2025年01月12日 | あ行の作家
カバーのこの落ち着いた赤に惹かれて手に取り、読み始めました。
装画は杉本さなえさん。
男女の背景に戦う猛獣たちと真ん中に禁断(?)の赤い実…。
この物語そのものの絵だと思いました。

そもそも猛獣たちははどうして戦っているのでしょう?
同じ仲間、同士であるはずなのに。
同志、夫婦、カップルになると決めたのは自らなのに。
いつしか、敵対する間柄になり、角と角を突き合わせて戦っている。

物語の舞台は、町から離れた管理人もいる別荘地。主な登場人物は、別荘地に定住している6組の夫婦と男女の管理人です。
その別荘地の近くに熊が出没し町に住む男女ふたりが襲われ殺されました。
この殺された男女が不倫同志。

この物語はミステリーやサスペンスやホラーではありません。
あくまでも、6組の夫婦のそれぞれの物語として綴られていきます。
間に管理人たちの過去や恋も含めて。

でも、気になっちゃうんですよね~。本当に熊なの?って。
殺された後に熊が来たんじゃないの?って。
もしかしたら、自らふたりで死を選んだ可能性だってあるんじゃないの?って。

この物語は隠し事の物語だと思うのです。
それぞれが秘めていた表に出していない出来事や本心を、自らが確信していく、自分の気づきみたいな。
だから、作者の読者に対する隠し事もありかな?なんて思います。
隠していても隠された方は気づいていたり。

それから、気づいたことがもうひとつ。
6組の夫婦たちはみんな夫が妻のお荷物的な存在になっていること。
年が行けば行くほど妻が面倒をみることになる…。その中で妻に対して夫は猛獣化してくるような。

死んでしまった男女についてはあまり描かれていないので、相手に対してどんな感情があったのかわかりませんが、わからないから良いのかも。

そして、もうひとり死んでしまった別荘地の住人も、本当に病死なの?って思ってしまいます。
本当に病死なら、張り合うことでかろうじて立っていられたのに、張り合う相手をなくして立っていられなくなった、それだけ相手に依存していたということなのでしょう。

依存、それこそが猛獣なのかもしれません。

家庭って檻なのかもしれませんね。
猛獣の檻。
自分の中の猛獣が顔を出す場所。
そして家から一歩出るときは、猛獣を檻の中(家)に閉じ込めておく。
猛獣になんて出会いたくないもの、結婚する人が減っていくわけです。


<本文より>
子供みたいな私の夫は、決して成長しない。



☆追記

改めてカバーの絵を眺めていたら、二頭の猛獣は鏡のような感じで描かれていることに気づきました。
夫婦、カップルって、お互いを映す鏡なのですね。




きっと私も同じ顔をしているだろう、と七帆は思った。
この最後の一行がそれを表しています。



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