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南信州で地域エネルギーに関わりながら思うこと

「黒い森」の森林管理

2013-01-28 | いろいろ
ドイツ南部の「黒い森」。
ドイツ在住の森林管理の専門家・MITの池田さんに、ここの森林管理を教わって来ました。
上の写真は、林道にあった環境教育用の展示。この森にある木が解説されています。
ドイツの森は木の種類が少なく、ここに展示されている8種類がわかれば、8割方はわかるそうです。
というのも、1万年以上前の氷河期にアルプス山脈を乗り越えられず、木々がいちど壊滅してしまったからだそうです。


こんな仕掛けも。小さなトーテムポールのような木で、顔が開いて、森についての解説が出てきます。


ドイツの森林管理の特徴は、「多様性」を守ること。
200年以上の森林管理の歴史の中で、森の多様性を保った天然更新に行き着いたそうです。
太い木、細い木、立ち枯れした木・・いろいろな木があります。
間伐はしますが、一気に面的にするのではなく、勢いのある木をさらに伸ばすためにその周囲を間伐します。
適度に管理することで(画一的にしない)、新しい木が自然に生えてきます。
自然に生えた木は、植林した苗木よりも根がしっかりしているし、遺伝子的にも強い。
様々な年代の木があることで、いつの時代にも適度に森のめぐみを得ることができ、収入につながります。「おじいちゃんの時代に植えて、お父さんが育成して、孫が収穫する」というような世代間の不公平もありません。

でも、ドイツの森も失敗がなかったわけではなく、試行錯誤をしています。

これは、森のシンボル「キツツキ」の彫刻。森の中にありました。
70~80年代にキツツキが黒い森から消えてしまいました。
なぜか。
キツツキは、木の中の虫を食べます。虫がつく木とは、弱った、病気の木です。
かつては病気の木は完全に処理して持ち出し、健康な木だけの森にしていたため、キツツキのエサがなくなってしまったのです。
立枯した木を残しておくと、そこにはバクテリア、虫など約600種もの生物が棲むそうです。
生物多様性のある森は、トータルでは病気にも強くなります。
単一性が高いと、一気にやられてしまいますが、多様性が高いと、害虫がいれば益虫もいる、という状況になり全滅することがありません。
その場の命の多様性を保ち、画一的な環境にしない考えは、日本の「自然農法」と似ているなと思います。

こうして多様性を保った森では、約3%ほど木の体積が成長します。
つまり3%の利回りを得られるようなものです。
3%の利回りの範囲で切り出していけば、元本には手をつけず持続可能な林業経営をすることができます。
自然の恵みの範囲内で、人の経済活動をしていけば、持続可能な環境と経営が達成できるのです!
よく考えれば当たり前ですが、これはハッとする指摘でした。

搬出のための山道(森林基幹道)も非常によく考えられていて、道の両サイドが下がっています。つまり屋根のようになっていて、水がわきに流れていきます。山なので傾斜がありますから、傾斜の下側の水はそのまま下に流れます。上側の水は、道の端っこの溝を流れるようになっていて、ところどころ暗渠があり、道の反対側に流れ落ちます。
水をしっかりコントロールすることで、丈夫で効率的な作業ができる道ができています。
30トンも運べる大きなトラックが、森の中のどこの場所にでも簡単にアクセスできるように作ってあります。アスファルトは使わず、しっかり踏圧し、じゃりをひいただけです。
林業労働者の給料は日本より少しむしろ高いのですが、この素晴らしい森林基幹道により、輸送コストが大きく下がっていて、トータルでは競争力を持ち得ています。日本では細いアスファルトの林道が、非効率的に通っているため、切り倒した木を重機で山の下へおろし、再度トラックに積むそうですが、ドイツでは切ったら林道からウインチで引っ張り、すぐにトラックに乗せて持ち出せるようになっています。

ちょっとわかりにくいですが、両脇が低くなっていて、水が落ちるようになっています。
もしフラットだと、水が溜まる場所ができて、そこから弱くなって道が壊れてしまいます。
日本の現在の規格では、ドイツのような森の道はつくれないそうです・・(でも、北海道のある地域では、林野庁にこの基準の変更を求めて、ドイツ式の道を整備し始めたそうです)


森の中へ向かう道。
森の中では、ノルディックウオーキングや、ジョギングをする人にも会いました。
森のレクリエーション機能もとても大切なものです。

こうした森の管理は、「森林官」による指導によってなされています。
民有林、国有林の関係なく、森林官が林業経営のアドバイスをしているそうです。
そして、森林官はシカを狩猟もしています。
今では狼がいなくなったため、シカを制御しないと若芽が食べ尽くされ、自然な木の更新ができなくなるからだそうです。

森林官のランゲさんから聞いた「持続可能な多様性」という言葉が、強く印象に残りました。
会社でも、家族でも、多様性が大事なのはきっと同じですね。