安倍首相靖国参拝支持がネット世論では8割になったという
yahooニュースの記事があった。
昨年末の安倍首相の靖国参拝は、相変わらず中韓の反発を招いた。
ところが今回は米国までもが「心から失望した」と声明を出し
EUとロシアも同様の懸念を表明した。
ネット世論といってもyahooの意識調査なのでNHKや大手新聞社等
の世論調査とは質を異にすると思われる。妥当だと応えた人の中
には相当のネトウヨもいると思われるが、安倍首相の靖国参拝が、
ある程度の支持を得ていることだけは確かだろう。
安倍首相の靖国神社参拝を妥当だと答えた人達の理由を大別すると
①戦後の繁栄や平和は英霊たちの犠牲の上に成り立っている。参拝
するのは国民として当然の行為。
②靖国神社参拝は国内問題で外国がとやかく言うのは内政干渉だ。
というのが主な理由だ。
しかし、共同通信社が行った世論調査は、安倍晋三首相による
靖国神社参拝に関連し、外交関係に「配慮する必要がある」が
69.8%と「配慮する必要はない」の25.3%を大きく上回った。
首相参拝について「よかった」は43.2%、「よくなかった」は
47.1%と批判的な意見が多かった。
この違いはなにか?
ネットの、あるコメント欄にネット世論の実態を暴露したコメント
があった。
「
簡単に多重投稿できるYahoo投票を根拠に、ネット世論の8割が
靖国参拝支持、などと記事を書くのは頭が悪過ぎる。自民党が、
いわゆるネトサポや情報操作会社を使ってネット世論の工作をし
まくっているのは有名な話。」
こうなるとネット世論というものは支持が8割といっても不確か
なものになってしまう。
「安倍首相の靖国参拝 ネット世論の8割が支持」のタイトルで
国際ジャーナリストの木村 正人氏の論説は産経新聞出身であり
ながら極めて冷静な分析を行っていて読み応えがある。
氏はyahoo意識調査の結果の内訳を紹介しながら 、その結果に
ついて次のように述べている。
「
Yahoo意識調査は、統計理論に基づいた標本調査ではなく偏り
が避けられないが、8割近くが安倍首相の靖国参拝を「妥当」と
考えているという結果は衝撃的である。主要メディアによる正規
の世論調査がどうなるのか、是非とも知りたい。」
そして、論点整理を行った上で、首相への提起を行っている。
即ち
○追悼施設としての靖国神社
○東京裁判を受け入れるか
○国民精神の原動力だった靖国
○靖国参拝の影響
「
安倍首相の最終的な政治目標は『憲法改正』で、財政破綻、ハイ
インフレという大きなリスクを伴う経済政策アベノミクスは政権基
盤を固めるだけの手段に過ぎないのだろうか。
安倍首相がいう『戦後レジームからの脱却』がどういう意味を持ち、
アベノミクスや国家安全保障会議(日本版NSC)、特定秘密保護法、
集団的自衛権の行使容認、憲法改正がその中でどう位置づけられる
のか。
安倍首相はこの1年、国家色の強い政策を避け、経済優先の安全運
転に徹してきた。しかし、特定秘密保護法から強硬な姿勢が目立ち
始めた。首相として靖国参拝に踏み切った今、安倍首相は『恒久平
和への誓い』という短い談話にとどまらず、国民の前で明確に政治
信条やビジョンを語るべきではないのか。」
意外だったのは保守の牙城の一つと思われる産経新聞の出身であり
ながら国際ジャーナリストという肩書きが示す通り、極めて冷静で
公平であることだ。
ただ氏の論説に対するコメント欄には安倍首相の靖国参拝支持者
のコメントも多く、その大半は感情論だ。反対に冷静なコメントも
多く見られた。
「
靖国神社は非常に偏った思想の神社であり、祀られている人々も
長州藩に偏っている。古来の神道の神社でもない。国家神道という
宗教というよりも戦争させる為の政治イデオロギーの為の神社。
こういったものを日本の鎮魂の象徴であるかのような間違ったプロ
パガンダを流し続けるのは大きな問題。
靖国神社は何よりも『国のために命をかけて戦え』という政府の命
令を支える施設としてつくられたものであって、平和を願う施設で
も、死者の遺志を表す施設でもない。」
「
靖国神社に参拝することは、戦没者を悼むことではない。
人殺しの原動力となったこの施設の存在を認めることによって、か
つて日本人が行った人殺し、ないし戦争に駆り出されて死んでいっ
た人たちへの加害を正しいとする行為である。」
「
安倍首相の靖国参拝を支持する人たちは、自分自身が『お国のた
めに戦え、死んだら靖国神社に祀ってやる』と言われたら、どうす
るのだろうか。自分の家族がそう言われたらどう感じるのだろうか」
「
安倍首相の思想がわかっていて、靖国神社がそういう存在である
こともわかっていて、なおかつ首相の靖国神社参拝を支持するのな
ら、自ら国家権力のために死ぬ覚悟があるということなのだろうか」
「
逆にそれは『もしこの国に何かがあったら、自分たちの安全を守
るために誰かに命をかけてほしい』という願望の表れなのではない
だろうか」
「
かつて政府の命令で数え切れないほどの人が殺し合いに参加して
自らも命を落としたことを『他人事』のようにとらえ、自分は絶対
にそうならないという確信を持ち、もしこの国が再度殺し合いに参
加しそうになったら、自分でない誰かが代わりに命を落としても仕
方がない(その代わり靖国神社に祀ってあげる)という考え方は、
私たちの中にはないだろうか」
「
今でも危機的状況にある福島原発の処理を他人事のように考えて
いる人が多いことを考えるとき、私は首相の靖国参拝を支持する人
たちが、殺しあうことを他人事だと考えているようにしか思えない
のだが、間違っているだろうか」
最後の方の二つのコメントは象徴的だ。東日本大震災、福島原発
の復興支援は賛成し支援しても、被災地の焼却灰や瓦礫の処理を
被災地以外の他県で受け入れようとすると反対運動が起きるのと
同じで「他人事」だからだろう。従って安倍首相の靖国参拝は支持
するが、例えば、いざ「尖閣防衛」もしくは「尖閣奪還作戦」とい
って政府が「志願兵」を募った場合、普段、勇ましいことを言って
いる人のどれくらいが「志願」するだろうか疑問だ。危機は目の前
にある。いつそうならないとも限らない。
話は少し逸れるが、昔の鍋島藩(佐賀県)には葉隠れという兵法が
あったと聞いている。その中の有名な言葉は「武士道とは死ぬこと
と見つけたり」この思想は鍋島藩に限らず武士階級が代々受け継い
できたものと思われるが、近代では士族が中心の明治政府以来、兵
士の命に対して、実に冷淡だったように思う。日露戦争の時は20
3高地攻略ではわずか11日間で約5000人の戦死者と約11000人の戦
傷者を出した。そして日露戦争全体ではロシアの2倍の約88000人の
戦没者を出している。文字通り日本の命運を賭けた勇猛果敢な戦い
ではあったが、あまりにも犠牲が多かった。そして先の大戦では
南方戦線で玉砕が相次ぎ、ついに戦争犠牲者は310万人となった。
その中には満州・北部朝鮮半島から帰還する途中で虐殺されたり
病死した民間人も多く含まれるという。NHKのドキュメンタリーで
はロシア軍に追われた満州・朝鮮北部に残留した日本人約24万人
は38度線で足止めされたが、日本政府は、その状態を知らされて
いながら戦後復興の足かせになるとして、帰還事業を行わなかっ
たという。ソ連も帰還事業の費用がない為、手をつけずにいたと
ころ、極限状況に耐えかねた残留日本人約20万人が38度線を越えて
アメリカ軍に救出を求めたという。その間に3万人以上が病気等で
命を落としているらしい。
これらのことから言える事は「農民は生かさず殺さず」の徳川
幕府の農民政策の思想や武士道の「死ぬことと見つけたり」という
死生観が政府の、国民とりわけ弱者に対する冷淡さになっていると
思われる。戦後の政府は昔ほど冷淡ではないと思われるが、この
ことを覚悟の上で戦場に臨まなければなるまい。
安倍首相の靖国参拝を支持する人たちのどれくらいが、その覚
悟を持っているだろうか。徴兵制のない日本では戦場に赴くのは
自衛隊員いかいない。その自衛隊員が戦死すれば靖国に祀ってあげ
ようということなのか?もちろん安倍首相をはじめとした政治家た
ちは戦闘には参加せず、犠牲者を弔うだけだ。今の日本で自衛隊員
以外で、その覚悟を持っている者が、どれほどいるか疑問だ。首
相の靖国参拝を支持する人たちの中で、政府が志願兵を募った時に
応ずることができる者は、果たして幾人いるか。さらに、その覚悟
とはなにか。頭でっかちで体がひ弱では闘うことはできない。フ
ランス軍の外人部隊の訓練で、その厳しさに耐え切れずに逃げ出す
者が多いと、なにかの記事で読んだことがある。覚悟とは、それ
らの訓練にも耐えて、戦場に臨むため普段の鍛錬を怠らないこと
も、その覚悟の表れだ。小生は若い頃に格闘技をやり、現在もウェ
イトトレーニングで体を鍛えてはいるが、戦場に臨むほどの覚悟
も度胸もない。そのこともあって安倍首相の「侵略の定義」に関す
る一連の発言をベースとした靖国参拝を支持することはできない。
yahoo意識調査の内、26万7931人(78.1%)が「妥当」と回答した
ようだが、その8割は男性だという。つまり約21万4千人が男性
で戦闘能力を有すると思われる40歳以下の男性は6割とすると
約12万8千人に昇る。十分な量の予備役だといえる。安倍首相
の靖国参拝を支持する人たちには、予備役として「登録」される
ことを望む。