キュキュン、キュウン――
見えない弾がいくつもかすめ飛ぶ中、ウミはなにかに気を取られるかのように立ちつくしていた。
「なにやってるんだよ」ソラは無防備に立ちつくしているウミに飛びつくと、二人そろって地面にうつ伏せた。
ドッ、ドゥーン――……。
と、わずかの間、耳が聞こえなくなるほどの轟音がこだました。
ソラは、重い空気の津波に揺すぶられ、ぼんやりとした頭を左右に振りながら顔を上げると、けたたましいエンジン音を轟かせ、黒い煙を噴き上げている戦車が、器用に方向を変えながら、こちらに向かって来るのが見えた。
大砲が、カラカラと音を立てながら、ソラ達のいる方に狙いをつけた。
「伏せて!」と、立ち上がりかけていたソラは、ウミの背中を押すようにもう一度地面にうつ伏せた。
大砲が火を噴く直前、ズルリッ――と、せり上がった地面に戦車が乗り上げ、宙を仰ぐほど大きくバランスを崩した。タンクの後ろに控えていた兵士達も、波打つ地面に立っていられず、一斉にどよめきの声を上げながら、その場に手をつき、しゃがみこんだ。
波を打った地面は、うねり返す波でズンと地中に潜り、渦を巻くように丸く口を開け、雪崩を起こすように崩れ落ちていった。
「うおーっ」と、四つんばいになっていた兵士達が、ばらばらと地中に飲みこまれていった。
戦車は、陥没した地面の際までなんとか近づいたが、急な角度で落ちこんだ谷を越えることができず、キャタピラが、グルグルと悲鳴を上げるようにかすれた音を立て、兵士達に続き、ポッカリと陥没した地面の中に滑り落ちていった。
ギュッと目をつぶり、両手で耳を塞いでいたソラは、なにも起こらない異変に気がつき、恐る恐る顔を上げた。
「どうしたんだろ……」ソラは体を起こすと、独り言のように言った。
飛び交っていた銃声が、時折遠くから聞こえてくるだけで、すっかり静まり返っていた。見ると、物陰に隠れ、銃を構えていた人々の姿がなくなっていた。攻撃が収まった機会を逃さず、安全な場所に移動したようだった。
「お兄ちゃん」と、顔を上げたウミが言った。「青い鳥がいたの、見なかった?」
ウミは、服についた砂を払いながら、体を起こした。
「えっ――」ソラがウミの顔を見ると、マット達が戦っていた廃墟の中から、角張った帽子を被った将校が一人、姿を現した。
「なんだこりゃ、魔法使いのしわざかよ」と、ヨゾフ大佐は暑苦しそうに帽子を脱ぐと、汗ばんだ金色の髪の毛を後ろになでつけた。「どうにも、手がかかる連中だな」
大佐は、地面に大きな口を開けた穴の縁を歩きながら、興味深げに中をのぞきこんだ。