夢幻に遊ぶYujin Koyamaの絵画と小説の世界を紹介します!

意外な人間の姿、風景に、きっと出会えるでしょう。フランスを中心に活躍する小山右人の世界を、とくとご堪能下さい!

女神の前髪

2015-08-02 23:30:49 | カルチャー
ブルームーンを、両親と夕食の後、心地よい川風に吹かれて眺め遣った。ちょうど話題の人工衛星が天空を過るのも見え、図らずも天体ショーとなる。 月の絵はもっと描きたい。海上の月を見遣る女神像の小品は、アトリエの隅に描きかけのまま放ったらかしだ。

イタリアの絵画・ビデオ個展用のビデオに添える音楽が素晴らしい。フランスの友人が、偶々ラジオで聴いて、ぼくのビデオに相応しいと直感し、ラジオ局にまで問い合わせて、全てを調整してくれた曲だ。世界中探したって、ぼくのためにそこまでやってくれる友人が他にいるか? どうやったら、そんな夢のようなフランス人の友人を見つけられるか、近頃しばしば尋ねられる。やっぱり米俵の中の一粒と出会うような偶然だったし、若いときに洗いざらい本音まで打ち明け合った信頼感は大きいと思う。

引っ込み思案では幸運はこない。ぼくは恥も外聞もなく、足を棒に歩き回る方だ。
近頃はディフェンスの世の中とも言われ、防御第一だが、パーティーに出席してさえ口を閉ざしたままで、チャンスを潰している人も多い。

この前出会ったヨーロッパのミュージシャンが、素敵な音楽を送ってきてくれた。珍しく惚れ惚れする曲だったので、方々に売り込みたいと意気込んだ。彼に了承を求めようとしたが、なしのつぶてだった。若さの奢りとか、ちょっとした気まぐれで、運命の女神の前髪を掴み損ねることもあるものだ。年月が経って、取り返しのつかない後悔が膨らむのと同時に甦ってくる、苦い思い出を残す類のすれ違い。Ah!

 明けて日曜日、いつものようにフランス語のレッスンの後、あまりに暑いので、都心のカフェに入る。あれ、マスターはイタリア人かな? 訊いたら、そうだという。Piacereだけ言って席に着く。他の外人が来て、マスターとフランス語で話し始めた。俄然、興味が湧く。
10月のイタリアでの個展のことを話したら、当然のこと関心を示してくれる。偶々フランスの友人がイタリア語に訳してくれた小説「珠」の要旨を持っていたので、マスターに見せた。さっそく音読し始めたマスターは感動を露わにし、これはもう近頃では滅多に見られなくなったイタリア語だと言った。もしこれを女性に捧げたら、心を捉えられるような言葉だよ、とも言ってくれた。
 もう行くところ何が待ち構えているか分からなくなってきた。