「君は僕に会うために生まれて来たんだ」
リナはその男に囁かれ、髪の一房に触れられただけで、頬を染めて俯くことしかできなかった。
豪奢な邸宅をいくつも持つ家の娘である同級生に誘われて訪れた仮装パーティー。
同級生は顔見知りらしい男と、どこかに消えてしまった。
リナは壁の華になるよりはと物珍しさも手伝って、会場内を見て回る事にした。
屋敷全体がパーティー会場になっていて、一部屋一部屋、違う装飾が施されている。 控えるボーイも部屋ごとに衣装を変えるという徹底振りだ。
ある部屋からはクラシックの調べが流れ、違う部屋からはオペラの一節が聞こえる。談笑するだけの部屋や、やけに密度の濃い空気が流れる部屋もあった。
リナは屋敷の中心であろう水のオブジェの前を通ると、食事が並べられた部屋に落ち着いた。
「天使が羽根を休めにいらしたのですか?」
ふいに、低い声が背後から聞こえた。
リナがあわてて振り向くと、そこにいたのは見知らぬ男だった。
漆黒の髪に紅い唇、東洋系の顔立ちにしては彫りが深く、何より女性が羨むだろうその容貌は、男女問わず振り返らせた。
それなのにだ、そんな男に声を掛けられたリナは、誇らしいどころかドギマギして、まともに顔もあげられなかった。
「可愛い人、お一人ですか?」
「…」
男が首を傾げた。
「……はい」
リナはだいぶ相手を待たせてから、蚊の鳴くような声でそう答えるのが精一杯だった。
「何か、お飲み物でも?」
リナはふるふると緩く首を横に振ると、ソッとその男の顔を盗み見た。
その横顔を見ながら、思わず小さなため息をついた。
それは、あまりにもその男が美しいから。そして、こども染みた自分とは釣り合わないと思ったからだった。
「 可愛い方、お名前は?」
リナはまたも首を横に振った。
「あの、もう行かなくては」
リナはそう言うのが精一杯で、一歩後ずさると、振り返って駆け出していた。
何て事をしたのだろうと思いながら、リナの顔は赤く染まり、胸は煩いくらいに高鳴るばかりだ。
階段を駆け下り、ふてバルコニーを振り返った。
そこで微笑むのは彼だった。
「あ…」
ふと、視線を外した刹那。
リナが顔をあげると、彼が目の前に立っていた。
その顔がシャンパンタワーの青白い光に照らされている。
怪しいほどに美しい彼の目が、魅惑的に光った気がした。
そして、リナに彼の長くやけに細い指が伸ばされた。
彼の顔が頬に寄せられ、吐息が耳に首筋に触れた。
リナは、首筋に鋭い痛みを感じると、目を閉じたのだった。
リナはその男に囁かれ、髪の一房に触れられただけで、頬を染めて俯くことしかできなかった。
豪奢な邸宅をいくつも持つ家の娘である同級生に誘われて訪れた仮装パーティー。
同級生は顔見知りらしい男と、どこかに消えてしまった。
リナは壁の華になるよりはと物珍しさも手伝って、会場内を見て回る事にした。
屋敷全体がパーティー会場になっていて、一部屋一部屋、違う装飾が施されている。 控えるボーイも部屋ごとに衣装を変えるという徹底振りだ。
ある部屋からはクラシックの調べが流れ、違う部屋からはオペラの一節が聞こえる。談笑するだけの部屋や、やけに密度の濃い空気が流れる部屋もあった。
リナは屋敷の中心であろう水のオブジェの前を通ると、食事が並べられた部屋に落ち着いた。
「天使が羽根を休めにいらしたのですか?」
ふいに、低い声が背後から聞こえた。
リナがあわてて振り向くと、そこにいたのは見知らぬ男だった。
漆黒の髪に紅い唇、東洋系の顔立ちにしては彫りが深く、何より女性が羨むだろうその容貌は、男女問わず振り返らせた。
それなのにだ、そんな男に声を掛けられたリナは、誇らしいどころかドギマギして、まともに顔もあげられなかった。
「可愛い人、お一人ですか?」
「…」
男が首を傾げた。
「……はい」
リナはだいぶ相手を待たせてから、蚊の鳴くような声でそう答えるのが精一杯だった。
「何か、お飲み物でも?」
リナはふるふると緩く首を横に振ると、ソッとその男の顔を盗み見た。
その横顔を見ながら、思わず小さなため息をついた。
それは、あまりにもその男が美しいから。そして、こども染みた自分とは釣り合わないと思ったからだった。
「 可愛い方、お名前は?」
リナはまたも首を横に振った。
「あの、もう行かなくては」
リナはそう言うのが精一杯で、一歩後ずさると、振り返って駆け出していた。
何て事をしたのだろうと思いながら、リナの顔は赤く染まり、胸は煩いくらいに高鳴るばかりだ。
階段を駆け下り、ふてバルコニーを振り返った。
そこで微笑むのは彼だった。
「あ…」
ふと、視線を外した刹那。
リナが顔をあげると、彼が目の前に立っていた。
その顔がシャンパンタワーの青白い光に照らされている。
怪しいほどに美しい彼の目が、魅惑的に光った気がした。
そして、リナに彼の長くやけに細い指が伸ばされた。
彼の顔が頬に寄せられ、吐息が耳に首筋に触れた。
リナは、首筋に鋭い痛みを感じると、目を閉じたのだった。