ACVIM(American College of Veterinary Internal Medicine・獣医内科の専門家のための国際的な認定機関)によるイヌとネコの尿石症の予防
暑い夏から急に気温が下がり、短い秋を通り過ぎて冬が近づいてきています。
寒くなるとイヌ、ネコ共に尿石症が増加するといわれています。
今回は、2016 年Journal of Veterinary Internal Medicne に掲載された論文『犬と猫の尿石症の治療と予防に関するACVIMのガイドライン』の内容から尿石症についてサイトからの転記と獣医師向けの記事のため一部専門的な内容にはなりますが、お伝えいたします。
目次
ストルバイト尿石症の予防について
ネコで多い無菌性ストルバイト尿石は、Mgやリンの含有量が少ない療法食を与えることにより予防することができます。一方、イヌで多い感染誘発性のストルバイト尿石の予防法は、尿路感染症を根絶することです。感染誘発性の場合は、療法食では完全には再発を防止できませんが、尿石形成を遅らせ、最小限に留めることができます
ストルバイト結晶
シュウ酸カルシウム尿石症の予防について
シュウ酸カルシウム尿石は、尿濃度を低下させ、尿の酸性化を避け、蛋白質含有量の多い食事を控えることにより、結石の再形成を最小限に抑えることが可能です。持続的な酸性尿がみられる場合には、クエン酸Kや、そのほかのアルカリ化クエン酸塩の投与が推奨されています。
また、結石が頻繁に再発する場合には、尿細管でのCa再吸収を増加させる、サイアザイド系利尿薬の使用を検討しましょう。ただ、サイアザイド系利尿薬は尿を酸性化するため、尿pHの測定を行い、酸性化を防ぐためのクエン酸Kを併用するか判断する必要があります。なお、尿濃度を低下させるために、高Na のドライフードを給与することは、尿量を増加させる効果が3〜6ヵ月と短期的であるため推奨されていません。
シュウ酸カルシウム結晶
尿酸塩尿石症の予防について
尿酸結石は、尿濃度を低下させ、アルカリ尿を促進し、プリン体の摂取を抑えることで、結石の再形成を最小限に抑えることができます。肉や魚を含む高蛋白の食事は、プリン体の含有量が多いため、尿酸結石の予防には食事中の蛋白質含有量を下げることが効果的です。
また、尿酸塩トランスポーター遺伝子変異があるイヌでは、尿酸結石の再発が多いため、キサンチンオキシダーゼ阻害剤の投与を検討することが推奨されています。
尿酸カルシウム結晶
シスチン尿石症の予防について
シスチン尿石症の再発を最小限に抑えるためには、尿濃度を低下させ、動物性蛋白質とNaの摂取量を抑え、尿pHを高め、去勢処置を行うことが有効です。
シスチンの前駆物質は、動物由来の食事に多く含まれています。そのため、シスチン尿石を予防するための食事には、シスチンの前駆物質が多く含まれる動物由来の食材を控え、タウリンとカルニチンが十分含まれるものが最適です。
酸性尿が持続しているイヌやネコには、クエン酸Kもしくは他のアルカリ化クエン酸を徐々に投与し、尿pHが約7.5に到達するようにします。また、シスチン尿石症を反復する動物では、シスチンを還元するチオール結合薬 (2-メルカプトプロビオニルグリシン)を追加することで、シスチン濃度を低下させたり、シスチンの可溶性を高めたりすることが期待できるでしょう。
シスチン結晶
まとめ
イヌとネコにおけるさまざまな尿石症は、食生活に気を配ることで予防することができます。予防においてはもちろんのこと、治療においても、療法食を用いた食事療法が大変重要になります。(最近は市販品でも下部尿路用と記載のあるフードもありますが治療には向きません)
また、一口に尿石症と言ってもどの結晶が出ているのかは尿検査をしないとわかりません。上記の通り結晶の種類によって治療も変わるため、尿検査は非常に重要です。尿検査を繰り返して経過を追ってく必要もあるため、ネット等で購入したフードを自己判断で使うのもお勧めできません。
尿検査は液体で0.5mlくらいあれば可能です(猫砂やペットシートでは検査できません)。ただ尿は体外へ排泄後は時間と共に性状が変化していきますので、可能であれば、朝イチの尿を午前中に持ってきていただくのがベストです。尿検査のみで結果は後日ご説明することも可能です。
療法食は各メーカーの無料サンプルフードを用意していますので、まずは食べてくれるかお試しください。
【参考文献】
星 史雄, ガイドラインに基づく尿路結石症の診断と治療, 動物臨床医学, 2020, 29巻, 1 号, p. 1-7