12月、クリスマスの頃は1年で最も寒い時期だという。
車の中はエンジンをかけても暖かくならず、外からずっとコートを着ている。
ラジオからはクリスマスソング特集が小さく流れていた。
冷え込む東京の空の下、複雑に絡み合った首都高は今、東京タワーをぐるりと回った。
赤い光が夜を照らす。
雪がちらつき始めた冬の夜。
「寒いねと言う君のいる暖かさ」
「なんかうっすら聞いたことあるな、それ。なんだっけ」
「確かサラダ記念日こんな感じなんだよね」
「ああそれだ」
天現寺、芝公園、竹橋。
矢印は自由気ままな方向をさしていて、グロリアは車線変更をしながら右や左に分岐を選んでいく。
あまりに違和感なくウインカーを出すものだから、本当に道をわかってるのかと思いつつ、このまま大都会に迷い込んでいられたらいいのにとさえ思っていた。
私と彼は初対面というわけでもないし、ましてや恋人同士でもない。
もう2年も友達としてやってきた。
冗談も真面目な話も、恋愛トークも下ネタもなんでも出来る気心知れた仲のはずだった。
車の中で2人きりでも異性を意識することはない、だって友達だから。
でもそれは20分くらい前までの話。
21時をまわったくらい、用賀インターを少し過ぎたところ。
恋が、降ってきた。
ずっと、ずっとずっと2年間ずっとただの友達だったのに、いきなり恋が降ってきた。
「そういやあ前に言ってたK大の彼氏とどうなったの?」
「あー、先々月別れた。君はメンタル自立してるから俺いなくても平気でしょ?って言われた、ウケるでしょ」
「もったいない」
「K大もったいないってこと?」
「違う違う、その男見る目ないなって」
「なにそれ」
「俺は好きだよ、香子のこと」
不意に下の名前を呼ばれたとか、ガラス越しに目が合ったとかそんな程度。
でもそれは確実な境目だった。
その瞬間『ただの友達』は、『好きな人』に変わった。
20分前と21分前では世界の輝きが違って見えた。
ただ寒かっただけの首都高の車窓は、一瞬で綺麗なウインターイルミネーションに変わった。
ずっと曇っていた空から急に雪が降ってくるくらい自然なことのように、恋は急に降ってきた。
車はパーキングに入り一時停止した。
「ごめん、トイレ」
とだけ言って足早に去っていく。
消えていく後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
くたびれた自販機でカフェオレを2つ。
暖かい缶をひとつコートのポケットにいれて、もうひとつを握りしめる。
好きになっちゃったなあ、なんて思わず口に出したら涙が出そうになった。
高架の上に浮かぶ見慣れた高層ビルが何かを訴えてかける。
でも、聞こえないふりをした。
今だけは何も聞こえないように。
「はい、カフェオレ」
「サンキュ。香子は?」
「買ってある」
「つか大丈夫?寒くない?」
「寒くないよ。祥太は?平気?」
「うん平気」
混雑を抜けたグロリアはスピードをあげて、大宮方面へ向かう。
高層ビルの合間、雪が光を放ちながら降ってくる。
失恋をするたびに二度と恋なんかしないと誓うくせに。
ああまた恋が降ってきてしまった。
多分、これはもう戻れない。
一度地表に降りた雪はもう空には帰れない。
「まあ香子は背筋がぴんっとしてるもんなあ」
「姿勢がいいだけでメンタルはそうでもないんだけどね」
「そうそう、知ってる」
祥太の言うとおりだ。
私たちは気心を知られ過ぎてしまった。
頭がよく優しいこの人に、遅かれ早かれ気づかれる。
私の思いも多分見透かされてしまう。
「てか雪綺麗だよ、試しに窓開けていい?」
「いいよ。寒いと思うけど」
「わ、寒!」
「だから言ったじゃん」
『寒いね』と言う君のいる暖かさを、もう少しだけ。
もう少しだけ、行き場のない想いをポケットに隠させて。
遠ざかる大都会の夜景に祈りを捧げる。
車の中はエンジンをかけても暖かくならず、外からずっとコートを着ている。
ラジオからはクリスマスソング特集が小さく流れていた。
冷え込む東京の空の下、複雑に絡み合った首都高は今、東京タワーをぐるりと回った。
赤い光が夜を照らす。
雪がちらつき始めた冬の夜。
「寒いねと言う君のいる暖かさ」
「なんかうっすら聞いたことあるな、それ。なんだっけ」
「確かサラダ記念日こんな感じなんだよね」
「ああそれだ」
天現寺、芝公園、竹橋。
矢印は自由気ままな方向をさしていて、グロリアは車線変更をしながら右や左に分岐を選んでいく。
あまりに違和感なくウインカーを出すものだから、本当に道をわかってるのかと思いつつ、このまま大都会に迷い込んでいられたらいいのにとさえ思っていた。
私と彼は初対面というわけでもないし、ましてや恋人同士でもない。
もう2年も友達としてやってきた。
冗談も真面目な話も、恋愛トークも下ネタもなんでも出来る気心知れた仲のはずだった。
車の中で2人きりでも異性を意識することはない、だって友達だから。
でもそれは20分くらい前までの話。
21時をまわったくらい、用賀インターを少し過ぎたところ。
恋が、降ってきた。
ずっと、ずっとずっと2年間ずっとただの友達だったのに、いきなり恋が降ってきた。
「そういやあ前に言ってたK大の彼氏とどうなったの?」
「あー、先々月別れた。君はメンタル自立してるから俺いなくても平気でしょ?って言われた、ウケるでしょ」
「もったいない」
「K大もったいないってこと?」
「違う違う、その男見る目ないなって」
「なにそれ」
「俺は好きだよ、香子のこと」
不意に下の名前を呼ばれたとか、ガラス越しに目が合ったとかそんな程度。
でもそれは確実な境目だった。
その瞬間『ただの友達』は、『好きな人』に変わった。
20分前と21分前では世界の輝きが違って見えた。
ただ寒かっただけの首都高の車窓は、一瞬で綺麗なウインターイルミネーションに変わった。
ずっと曇っていた空から急に雪が降ってくるくらい自然なことのように、恋は急に降ってきた。
車はパーキングに入り一時停止した。
「ごめん、トイレ」
とだけ言って足早に去っていく。
消えていく後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
くたびれた自販機でカフェオレを2つ。
暖かい缶をひとつコートのポケットにいれて、もうひとつを握りしめる。
好きになっちゃったなあ、なんて思わず口に出したら涙が出そうになった。
高架の上に浮かぶ見慣れた高層ビルが何かを訴えてかける。
でも、聞こえないふりをした。
今だけは何も聞こえないように。
「はい、カフェオレ」
「サンキュ。香子は?」
「買ってある」
「つか大丈夫?寒くない?」
「寒くないよ。祥太は?平気?」
「うん平気」
混雑を抜けたグロリアはスピードをあげて、大宮方面へ向かう。
高層ビルの合間、雪が光を放ちながら降ってくる。
失恋をするたびに二度と恋なんかしないと誓うくせに。
ああまた恋が降ってきてしまった。
多分、これはもう戻れない。
一度地表に降りた雪はもう空には帰れない。
「まあ香子は背筋がぴんっとしてるもんなあ」
「姿勢がいいだけでメンタルはそうでもないんだけどね」
「そうそう、知ってる」
祥太の言うとおりだ。
私たちは気心を知られ過ぎてしまった。
頭がよく優しいこの人に、遅かれ早かれ気づかれる。
私の思いも多分見透かされてしまう。
「てか雪綺麗だよ、試しに窓開けていい?」
「いいよ。寒いと思うけど」
「わ、寒!」
「だから言ったじゃん」
『寒いね』と言う君のいる暖かさを、もう少しだけ。
もう少しだけ、行き場のない想いをポケットに隠させて。
遠ざかる大都会の夜景に祈りを捧げる。
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