死臭、と言うのも嫌なのだけれど。
「もうすぐ(亡くなる)かもしれない」
といった状況くらいは判る。
活気がなくなり、便、呼吸に異常が見られる。
早番で朝食の介助をしようとしたら、1人の入居者さんが顔面蒼白だったもので驚いた。
近くにあった血圧計でバイタルをとる――低い。
夜勤の社員さんに伝え横になってもらったあと、
「Aさん、顔面蒼白だったので臥床して頂きました。バイタル○○の○○です。チアノーゼが見られます。サチュレーション測りたいんですがパルスオキシメーターありますか?」
とナースに電話をかけた。
「つーか意識あるんでしょ。サチュレーションも別にいいよ」
「あるにはありますけど……清明とは言えません。揺さぶって大声で呼び掛けてやっと反応するくらいです。見てもらえませんか」
「今配薬で忙しいから……」
と言われたまま切られてしまった。
それでも水分量が明らかに少ないから、やっぱりナースに
「一昨日から記録たどりましたが水分量も尿量も僅かです。点滴はしないんですか?」
「いいよ別に、今日人いないし」
……口調に呆れた。
自分の所見に自信があるわけではないが、レベル低下は見て明らかだ。
このチアノーゼや意識の混濁、呼吸苦は何なのか、どうすればよいのか。
今何をしたらよいのか指示が欲しかった。
昼前、夜勤明けの社員さんとその若いナースがもめていた。
「だからパルオキを貸してって言っているだけでしょ。医務が忙しいのは知ってるからこっちがバイタルくらいはとるっつってんの」
「余計なことしないでいいですよ。医務は医務に任せてください」
「任せてくださいってあんたたち30分おきにバイタルとりにこれるの?!こっちだって生半可な気持ちでケアしてんじゃないんだから。余計なことをしようとしてるんじゃない、出来ることはやるから指示を下さいって言ってるだけじゃない」
何度も味わった苦味がまたした。
私を看護の道へ押し出したあの苦味。
昼休み、喫煙所で別の社員さんと。
「Aさん大丈夫ですかね」
「夜が怖いわ。死臭って言うのかな、なんとなくそんな気がする」
「わかります……便も続いてますし。なんか呼吸の仕方が……」
「そう……素人の適当な予感で外れてくれるといいんだけどね……」
煙が揺れる。
「○○さんと□□さん、すんごい揉めてましたね。あたし、話通す順番間違えたんでしょうか」
「命に話通す順番なんてないわよ。あなたが悪いんじゃない。いつもそう、『意識あるから大丈夫』って。その意識に明らかに異常があるから連絡してるってのに。ケアサイドの言うことなんてって見下すのは勝手だけど、人の命を何だと思ってるのかしら……あなたはあんな看護師になっちゃだめよ」
と寂しげに呟いた。
またあの苦味だ。
『介護職だって命守るときあるんだよ?』
と学生時代の友人相手に言った言葉を思い出した。
『こっちだって生半可な気持ちでケアしてんじゃないんだから』
と大声で言っていた社員さんに、いつだったか元上司に怒鳴った自分の姿が重なった。
また煙が揺れて、すぐに消える。
煙みたくあの死臭が消えてくれればいい。
無事に朝を迎えてくれればいい。
「もうすぐ(亡くなる)かもしれない」
といった状況くらいは判る。
活気がなくなり、便、呼吸に異常が見られる。
早番で朝食の介助をしようとしたら、1人の入居者さんが顔面蒼白だったもので驚いた。
近くにあった血圧計でバイタルをとる――低い。
夜勤の社員さんに伝え横になってもらったあと、
「Aさん、顔面蒼白だったので臥床して頂きました。バイタル○○の○○です。チアノーゼが見られます。サチュレーション測りたいんですがパルスオキシメーターありますか?」
とナースに電話をかけた。
「つーか意識あるんでしょ。サチュレーションも別にいいよ」
「あるにはありますけど……清明とは言えません。揺さぶって大声で呼び掛けてやっと反応するくらいです。見てもらえませんか」
「今配薬で忙しいから……」
と言われたまま切られてしまった。
それでも水分量が明らかに少ないから、やっぱりナースに
「一昨日から記録たどりましたが水分量も尿量も僅かです。点滴はしないんですか?」
「いいよ別に、今日人いないし」
……口調に呆れた。
自分の所見に自信があるわけではないが、レベル低下は見て明らかだ。
このチアノーゼや意識の混濁、呼吸苦は何なのか、どうすればよいのか。
今何をしたらよいのか指示が欲しかった。
昼前、夜勤明けの社員さんとその若いナースがもめていた。
「だからパルオキを貸してって言っているだけでしょ。医務が忙しいのは知ってるからこっちがバイタルくらいはとるっつってんの」
「余計なことしないでいいですよ。医務は医務に任せてください」
「任せてくださいってあんたたち30分おきにバイタルとりにこれるの?!こっちだって生半可な気持ちでケアしてんじゃないんだから。余計なことをしようとしてるんじゃない、出来ることはやるから指示を下さいって言ってるだけじゃない」
何度も味わった苦味がまたした。
私を看護の道へ押し出したあの苦味。
昼休み、喫煙所で別の社員さんと。
「Aさん大丈夫ですかね」
「夜が怖いわ。死臭って言うのかな、なんとなくそんな気がする」
「わかります……便も続いてますし。なんか呼吸の仕方が……」
「そう……素人の適当な予感で外れてくれるといいんだけどね……」
煙が揺れる。
「○○さんと□□さん、すんごい揉めてましたね。あたし、話通す順番間違えたんでしょうか」
「命に話通す順番なんてないわよ。あなたが悪いんじゃない。いつもそう、『意識あるから大丈夫』って。その意識に明らかに異常があるから連絡してるってのに。ケアサイドの言うことなんてって見下すのは勝手だけど、人の命を何だと思ってるのかしら……あなたはあんな看護師になっちゃだめよ」
と寂しげに呟いた。
またあの苦味だ。
『介護職だって命守るときあるんだよ?』
と学生時代の友人相手に言った言葉を思い出した。
『こっちだって生半可な気持ちでケアしてんじゃないんだから』
と大声で言っていた社員さんに、いつだったか元上司に怒鳴った自分の姿が重なった。
また煙が揺れて、すぐに消える。
煙みたくあの死臭が消えてくれればいい。
無事に朝を迎えてくれればいい。
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