2016年後期BK朝ドラ『べっぴんさん』の第4週「お父様の背中」のネタバレ感想。
男も女も仁義なき戦い。
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『精霊の守り人』『ちかえもん』『映像の世紀』他、大河、Nスペ、BSプレミアムのまとめ。
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●まっすぐに生きなさい
めでたく開店、ベビーショップあさや。
お客さん第1号は五十八パパンと忠さんでした。
君枝ちゃん、良子ちゃんとは会ったことがあるのですが……あれ、あの子は誰?なのが明美ちゃん。
忠さんが気づき、かつて坂東家に勤めていたマツさんの娘さんということが判明しました。
「いや…元気そうで。マツさんにはほんまお世話になった」
明美ちゃんに声をかける五十八パパンなのですが、明美ちゃんの心境はなんとも複雑。
「大事な大事なお嬢様と使用人の子どもが一緒に働くなんてどう思ったやろな、坂東の旦那様は…」
表のショーウインドーに飾られた上品なワンピースを眺めながら、独り言のように呟きます。
その言葉を聞いていた麻田さんは明美ちゃんに「それは言葉通りの意味だ」と話し、続けました。
「ええですか?物事はまっすぐに見るもんです。そやないとこれから起きることすべてが曲がってしまいます」
素直になりなさい。
人の気持ちをまっすぐに受け止めなさい。
明美ちゃんはすみれたちに協力すると宣言したものの、まだ身分差や貧富の差にわだかまりを抱えているのでしょう。
大きなお屋敷の大事なお嬢様、そこに仕える使用人の娘。
幼い時のクッキー事件が明美ちゃんの心に与えた傷を思うと胸が傷みます。
まっすぐに生きなさい。
実際には難しいことだけれど、まっすぐに生きてほしい。
流されないよう根を張って、風にしなるように柔軟に、優しい言葉はしっかりと栄養にして、この時代を生き抜いてほしい。
麻田さんの言葉もまた別品。
●近江商人、三方よし
商店街に新しいお店が出来た。
若い子たちが立ち上げたベビーショップらしい。
賑わう店内に早速やってきたお客さん第2号は、時子ちゃんたち。
例の西洋式おしめを手に取り、値段を尋ねるのですが……実はまだ決まっていない。
これには暖かく見守っていた五十八パパンもおこ。
「物を売るのに値段を考えてへんやて!」
考えてないのは売値だけではありませんでした。
「原価は?」
「手間賃は?」
なんだ、バザーかフリーマーケットでももう少し計算するだろww
と、ふと。
この人たちセレブだったー(ノ∀`)
よくよく考えたらお金持ちって値札とか見ないですよね。
回らないお寿司しかり。
店舗販売なら「これくださいな、おいくらかしら?」でしょうし。
そもそも店舗にすら行かないかもしれない。
お洋服も靴も職人さんのオーダーメイドなんだろうな。
セレブっていいなあ!!
値札という発想がなかったことは仕方ないとして、これからはそういう感覚を身につけなければならない。
五十八パパンがすみれたちにまず聞いたのは、理念でした。
「思いを乗せた値段をつけなさい。その上で買うか買わへんかはお客さんに預けるんや」
思いを乗せた値段をつけよう。
でもそれっていくらなんだ?
買い手の金銭感覚ってどんなもんなんだ?
迷ったすみれ。
再度来店した時子ちゃんたちが「お値段決まった?」と尋ねると
「言い値で売ります!」
ひとつ10円程度ならおにぎり我慢すればいい程度だから買える。
そんなことを話している時に響く腹の音。
腹 が 減 っ た 。
すみれもお母さんたちの苦労を察したんでしょうね。
思わず……
「はい!今日は特別に来店記念のプレゼント!サービスサービス!」
呆れ顔の五十八パパはさておき、これって試供品システム、無料サンプル商法ですよね。
情報発信力のある奥様方がモニターになり、口コミで宣伝してもらう。
しかも地元商店街で同じようにお店を営む奥様方。
商いをする者として無下なことはできないし、裁縫教室にお礼の品を持ってくる奥様方だから、積極的に周囲に広めてくれそうですし改善点なんかも教えてくれるでしょう。
品物自体はプレゼントになりましたが、結果として効率のいい広告を出すことに。
すみれ、やりおる。
でもパパンからしてみれば心配でしょうがない。
そんな五十八さんに忠さんは笑っていました。
「昔の旦那様を見るようですなぁ。商売はまず信用なんや言うて儲けなど考えずに商いをしてはりましたやないですか!」
「よう似てるなぁ」
何事もまずは信用。
利益を出すのはそこから。
元は「三方よし」の近江商人の五十八パパン。
「買い手良し、売り手良し、世間良し」。
おいおい大丈夫か?とハラハラさせておいて、でもそのやり方は近江商人の五十八と似ている。
暖かく見守ろうじゃないか。
この一連の流れが上手。
「おまえまだ値段つけられないの?何回目?」という声も散見します。
でもすみれにとってそれは難しいことなのでしょう。
序盤の高速展開にくらべてじっくりと描かれる『金銭感覚』。
このお嬢様がどうやって実業家に育っていくのか、が丁寧に描かれ始めているのだと思います。
心配されてるとはいえ一流のビジネスマンから評価されたすみれたちの理念。
あとはそれをどうやって商売に繋げていくかだ。
●麗子さんと良子ちゃん
このあとすみれたちのところにゆりがやってきて、潔が逮捕されたことを伝えます。
五十八パパンはゆりに付き添うと言う。
すみれもついていこうとするのですが、大事なお店の開店日に穴を開けるわけにはいかない。
で、3番目のお客さんはというと。
おう、なかなかパンチが効いてる。
「いらっしゃいま……」
パンチがてきめんに効いていたのは、良子ちゃんと時子ちゃんらでした。
軍人さんを連れてきた派手な女性・麗子さんに思わず身じろぎしてしまいます。
肌着を買おうとした麗子さん。
「100円…でどうですか」
「安っ!」
……さては無意識にふっかけたな?
やりおる。
しかし問題はこのあとでした。
麗子さん相手に表情も言葉も固まってしまっていた良子ちゃん
「お客様やで。お客様相手に何なん?あの態度。ほんま感じ悪いわ」
「でもああいう感じの人苦手なんやもん」
言い合いになってしまう良子ちゃんと明美ちゃん。
君枝ちゃんも良子ちゃんを諌めます。
ふてくされる良子ちゃん、なだめるすみれ。
吐き捨てるように言う明美ちゃん。
「嫌や嫌や。これやからお嬢さんは嫌なんや」
明美ちゃんの言うことはだいたい正しい。
でも正論が人を傷つけてしまうこともある。
それは多分、相性のあるリアルな人間の姿。
とはいうものの、良子ちゃんも悦子様の姿を知っていればまた違ったのかもしれません。
というよりすみれが悦子様に会っていなければ、良子ちゃんのような反応をとっていたことと思います。
じゃあモラリスト・君枝ちゃんは?というと、「はしたないお客」に顔をしかめることなく接客できている。
先週、姑さんが連れ戻そうとしたときに君枝ちゃんは戦争を契機に価値観が壊れたことを話していました。
そんな君枝ちゃんはもう「はしたなさ」も受容できる。
(ぬかりねえ脚本だ)
それにしても麗子さんの表情が優しい。
赤ちゃんのために肌触りのいい肌着を求めて、そのためなら出費は惜しまない。
自分はなりふり構わずに軍人さんに媚売って生きてるのに、子どものためならいいものを。
かつてすみれが話していた「自分のものなら我慢するけど、子どものためならいいものを買う」をそのまま表しているような。
●ちびっこ3人
ところで、3人のちびっこはどうしているかというと。
先週ちらっと喜代さんが面倒みているカットがありました。
3 人 ま と め て ! !
いくらなんでも大変だろ……と思っていた矢先の月曜。
忠さんとすみれのやりとりでその経緯が明らかになりました。
「こどもたちは?」
「喜代さんが見てます」
「3人とも?大丈夫?」
「心配したんだけど大丈夫っていうから」
「ありがたいこっちゃ」
時間差だが世間の声回収しよった。
初日終わって子どもたちを迎えに行って、喜代さんありがとう、いえいえどういたしまして、で終わると思いきや。
「龍ちゃんええ子にしてた?」
「ええ子やったね」
「ええ子やないよ、フフフッ」
やんわりやんわり、「いくらなんでも大変過ぎです」と伝えておく喜代さん。
店を貸してくれている麻田さん(多分賃料払ってないな)や大変だけど子どもたちの面倒を見てくれている喜代さん。
周りの大人たちが今は支えてくれるけれど、でもきちんとそこに感謝しような。
きちんと自分たちの足で立っていこうな。
喜代さんがしっかり「ちびっこ3人とか大変ですから!」って伝えられてよかったです。
●不穏
潔が逮捕、連行されてしまったゆり姉ちゃん。
不安に駆られて神戸にやってきて、そのまま五十八に付き添ってもらって警察署。
(またひとりだけ作画の違う高良健吾よ)
栄輔も警察署に、と思ったら五十八パパンと突然の握手会。
「坂東五十八さんですか?ああ…握手して下さい!感激や!」
「まあそれだけええ時代やったいうことや」
五十八パパかっこええ。
かつては多くの人から慕われた一流のビジネスマン。
ヒューヒュー言われても「それはそういう時代だったから」と。
近江商人・坂東五十八、カッコいいぞ。
しかし問題は目の前のゆり。
「だから言ってたのに。こんな警察に捕まるようなことやめてって。潔さんがいなくなったら私…」
努力家で元気で、知性も夢もあったしっかり者の長女が縮こまってしまっている。
五十八が見たのはそれだけではありませんでした。
潔はすぐに釈放されて闇市のバラックに帰ることに。
「大事な娘がこないなとこにおるやなんてって…思うてますよね」
「そんなこと思うてない」
時代に順応している五十八は、闇市で生きることに対しては思ってはいないでしょう。
むしろ心配なのは娘のこと。
一同が驚いたのは荒らされたバラックでした。
根元の手下、玉井たちの姿。
「場銭払わん店は片付けても片付けてもこないなふうになるらしいで」
場銭を払うと言って追い払う潔。
ですが玉井は向かいのおじさんたちに絡み始めます。
あいやータマネギ皮ごとはきっつい。
ほらー飲み込めてない。
(役者魂ってすごい)
場銭300円を払うことができないおじさんたち。
玉井らのやりかたを見かねた潔が止めに入り、おじさんたちも自分らの仲間だから場銭をとる必要はないと怒鳴ります。
そのやりとりを眺めていたのが、闇市の元締め・根本。
根本の姿を目視する五十八。
五十八と根本、何かありそうだぞ。
それにしても300円の場銭が払えないおじさんたち。
100円の肌着を安いと言って購入する麗子様。
すみれや明美ちゃんたちの間だけではなく、間接的に描かれる経済格差が切ない。
麗子様がプライドを切り売りして母子ともに生きるためにその高収入を得ているのかと思うと余計に切ない。
●内はそういう星の下に生まれたんや
そのころ明美ちゃん。
勤め先の病院で解雇宣告を受けていました。
(海原かなた師匠、『あさが来た』『マッサン』に続いたまたお断りする役)
元勤めていた医師や看護婦が外地から復員し、人員整理が必要になったという。
真っ先にその対象になったのは、独身で子供もいない若い看護婦。
「キミは独り身やろ?君は若いし、ひとりやったらなんとかなるんやないかな」
あーあーあー、君独り身だもんねー、急性期病棟いけるよねー、夜勤多くても大丈夫だよー、あっ人手足りてるから減らすよー。
ってあるあるー超あるあるー(胃が痛い
言い返す言葉があるわけがない。
「何でやろか…何でうちが…」
ここまで頑張ってきた。
でもいつだって優先されるのは家族のいる人たちだ。
旦那さんがいて、お子さんがいて。
独り身は『おまえは自由に動けるだろう』と追い出されてしまう。
家庭のある人と同じくらい、生きるのに必死だというのに。
寮を出されてしまったら、今日眠る布団もないというのに。
その夜、明美ちゃんはあさやさんに打ち明けました。
「うちはそういう星の下に生まれたんや」
そういう考え方はよくない、と麻田さんは明美ちゃんを諭すのですが……
●だってあの人看護婦さんでしょ
明美ちゃんを取り巻く闇の深さは底知らず。
すみれたちがランディ大佐(君枝ちゃんたちが元住んでた本宅に住んでる軍人さん夫婦)からテーブルクロスの制作を請け負ったとき。
打ち合わせの細かい部分をすり合わせるのに、明美の英語力が必要になりました。
が、問題は良子ちゃん。
なんだなんだ、言いたいことがあるのか、と顔をしかめる君枝ちゃん。
明美さんの言っていたことは間違いではないだろう、と。
でも良子ちゃんも言い返す。
「何でそんなこと言うのよ」
「私はあの人好かんのよ」
だって好きじゃないんだから仕方ないじゃないか。
「4人って言うてもあの人は看護婦さんでしょう?」
この『あの人ナースでしょ』がえぐく刺さりました。
良子ちゃんの言葉の裏には何が隠れているのか。
働くこと、女性が働くこと、女性が手に職持って働くことへの偏見ならまだいいんです。
しかし看護婦の歴史を振り返ってみると、社会的地位が確立されたのはごく最近の話です。
物語は今昭和20年代。
明美ちゃんは確かに手に職を持っていますが、じゃあ社会的地位があるか?と言われればそれは微妙なところかもしれません。
良子ちゃんの言葉には「看護婦という仕事への職業差別」があるんじゃないかな。
そんなことをふと考えてしまいました。
うーんこれは暗い。
さらに物語に暗さを落としているのが、その職業への偏見は現在進行形であるということ。
「昔の看護婦の扱い」は「現代の介護福祉士の扱い」でもあるってこと。
「若い女性からクビ切られるのあるあるー」とも言いましたが、これはドラマの中・昔の話ではない。
うーんこれは真っ暗。
過去の暗さだけでなく現在進行中の暗さも含まれる。
明美ちゃんの部分だけではありません。
みんな現代の暗い部分に通じるんだよなあ。
こりゃあ暗いわな。
世間で言われる「『べっぴんさん』は暗い!」の理由がなんとなくわかりました。
時代の暗部がどう明るく照らされていくか。
歪曲して描かれるのも、そうじゃない感が溢れでてしまう。
とはいえ、くさいものに蓋をしない物語。
がんばれすみれ。
●ごちそう、おイモの煮汁
暗雲立ち込めるベビーショップあさやですが、ある男がやって来ました。
良子ちゃんの旦那さん・勝二さんが帰ってきた。
あのよさそうな時計を贈った15歳年上の旦那さん。
良子ちゃんに家族団欒が帰ってきました。
「毎日おイモをふかすでしょう?使い続けていると蒸し器の底の水が蜜のように甘くなるの。今日は勝二さんが帰ってきたお祝いよ」
「要らん。龍一に全部食べさせてやってくれ」
塩鮭の配給もあった、この煮汁も美味しいから食べてほしい。
いや、自分のために特別なことはしないでほしい。
物は少ないけど精一杯の御馳走を食べてほしい。
小さな小さな生活の知恵。
でも夫はそれを受取ろうとしない。
上海での話を拒む勝二さんと、数年間帰還を待ち焦がれてきた良子ちゃん。
2人の間に吹きすさぶ隙間風。
それを察知したのか、良子ちゃんは勝二さんと一緒にいる時間を増やそうと、唐突に言いだします。
「明日はお店に行くのやめるわ」
しかし勝二さん。
「わしのことは気にせんと行きなさい。休まんほうがええやろ」
仕事なのだからそんな理由もなく休むんじゃない。
思えば「ええよ、ええよ」と不器用ながら優しかったという勝二さん(良子ちゃん談)。
良子ちゃんはそんな勝二さんのことが大好きなのでしょうし、勝二さんも良子ちゃんのことを好きだから妻のやることを応援したい。
時計を贈り合うそんな仲睦まじい二人だったのに、今は隙間風がふいている。
名脇役の田中さん、それからアイドルでもある百田さん。
実際は15歳どころか30歳くらい年の離れているお二人ですが、会話の間にある隙間がずっしり来ます。
●一言多い女たち
翌日。
すみれと明美ちゃん、君枝ちゃんはランディ大佐の家に向かいます。
パッチワークのテーブルクロスを製作すると決定し、帰り道笑顔を浮かべる3人。
その前に現れたのは、店番をしているはずの良子ちゃんでした。
「私…辞める」
自分たちが留守中に一体何が起きたのか。
「分かった。お客様に怒られたりしたんちゃう?」
「違う。そんな事ではありません」
ピリピリと口論モードになる明美ちゃんと良子ちゃんですが。
良子ちゃんは続けて言いました。
「主人がうちにおってほしいて」
勝二が勤めていた造船会社は空襲の被害に遭ってなくなってしまった。
これから仕事を探すことになるけれども、うちの主人のことだからすぐに決まる。
これにカチンときた明美ちゃん。
「ええなあ、羨ましいわ。奥様はのんきで」
「何よ…悔しかったら自分も奥さんになればいいのに」
「おあいにくやけどうちは仕事持ってますから」
良子ちゃんも明美先輩も……
おまえらウソこけえ!!!!
明美ちゃんあなたクビになったでしょ?
良子ちゃん、あなた旦那さんそんなこと言ってなかったでしょ?
「私の方が幸せよ」「いや私の方が」とお互い嘘までついたマウンティング。
今の明美ちゃんからしてみたら、良子ちゃんのこの発言は心底腹が立つでしょう。
家族のある人、家庭のある人がみんな敵。
すみれは君枝ちゃんはまだマシに見えるかもしれないけれど、良子ちゃんは……
「夫帰ってきましたー、辞めまーす」
「あなたも結婚したらいいじゃないwww」
ゴミに見えてるかも可能性もある。
良子ちゃんも良子ちゃんで大概だけれども、そもそもは明美ちゃんだった。
「うちはそういう星の下…」と言っていた悲しみから、隣の芝が青く見える憎しみ。
気持ちが弱ってしまっているときに、そういう負の感情が出てくるのあるある。
旦那がいる幸せvs仕事がある幸せ、と字面にして現代版のそれを想像するとドロドロ昼ドラ案件で眩暈がしてくるのですが。
良子ちゃんと明美ちゃんのやりとりは「おまえら一言多いわ」で済んでしまう。
だってまだ嘘ついてる段階だし。
ドロドロ女同士のマウンティング大会っていうよりも。
子猫が「お前ムカつく!」「おまえのほうが腹立つ!」と言ってるの喧嘩くらいのゆるさを感じます。
(渡辺さんが本領発揮したらもっとヤバいはず……)
しかしまあいきなりの暗礁ドーン。
超高速で青春時代・新婚時代と駆けて、またサクサクっと店が誕生、四葉のクローバーも集結。
「クローバーがそろいました、じゃあこれから4人で明るく笑って頑張っていきm……ってそんな簡単に話が進むわけねえじゃんwww残念でしたあwww」
それもジワジワとヒビが入るような軋轢。
2週でスピード出して飛ばして描きたかったことのひとつは、「女4人集まってそう簡単に物事上手くいくわけないじゃん」だったのかもしれません。
ここからどうやって建て直して、初回アバンにまで持っていくか。
歴史とは違う物語としての楽しみです。
●隣の芝生は青く見える
良子ちゃんはそのまま辞めてしまいました。
受注したのはテーブルクロスだからここはまだいいけど、洋服などではパタンナー不在というのはどうしても厳しい。
そんなとき、沈黙していた君枝ちゃんが言いました。
「良子ちゃんがいなくなって、本当はちょっとほっとしてるところがあるの」
良子ちゃんが幸せなのは嬉しい。
でも毎日幸せそうに旦那さんのこと話されるのは嫌だ。
オートバイの君発言など良子のキャラクターからして楽しそうに話すのは想像がつきます。
君枝が笑顔のあとに「はしたないわ」と言いたげな顔してるのも想像がつきます。
「結局は嫉妬なんやけどね。あ~あ、私は器の小さな人間やわ」」
目を伏せて笑う君枝ちゃんに、麻田さんがそっと言葉をかけます。
「そういう自分を認めることができるのは器が大きな証拠です。早く帰ってくるとええですな」
良子と明美のヒリヒリするマウンティングのあとに。
君枝との良子のジワジワしみるマウンティング。
でもそれはただの嫉妬なんだよ、と。
嫉妬している自分を認めるのも大事なんだよ、と。
もちろん君枝ちゃんも麻田さんも、明美に聞かせてるわけではありません。
でも明美とすみれはこのときの君枝ちゃんと麻田さんのやり取りを聞いている。
聞かせるのが上手だなあと。
●店内飲食禁止
店にいる3人のところにやってきたのは麗子様でした。
麗子さまは良子ちゃんを探している様子。
いったいなにがあったのか、と尋ねてみると。
ひとり接客デビューしたときに限って、難しいお客様がくるのあるある。
麗子さまの話によると、麗子さまのお友達たちが良子ちゃんにきつい言葉を浴びせてしまったとのこと。
麗子さまは良子ちゃんの様子を見に来たと言っていますが、おそらくは代わりに謝りに来たのでしょう。。
良子ちゃん言いたいよね。
物を食べている手で商品を触らないでほしい、だったら「買わなくていいです」って。
でもねそれを言っちゃいけないんだよ。
ましてや購入を検討していたお客様だ。
お友達の焼き鳥も、良子ちゃんの対応もどちらもよろしくないんだけど。
麗子さまが「思ったよりいい人」だったように、お友達だって根っからの悪人ではないのでしょう。
いややっぱり店にタレの付いた焼き鳥はよくないし、お客様に買うな!もよくないんだけど。
単焦点レンズのようなコントラストあげたような画。
これ多用されると酔うのですが。
今回みたいな回想で、ピンポイントで使われるのはなかなかいい。
心情を伴った視点の動きを現すのに秀逸かなと。
良子ちゃんビジョンで何を見て何を思ったかがわかりやすいです。
●嘘はよくない
そんな体験をした良子ちゃんが嘘をついて店を辞めたこと、勝二さんは知っていました。
『アメリカ製のいい匂いのする石鹸』を持って、妻が待っているであろうベビーショップに届けるとそこに妻はいない。
聞くと「だんなさんの言葉」で辞めたという。
バラックに帰った勝二さんを、良子ちゃんが出迎えます。
勝二さんは責めるでもなく淡々と。
「嘘ついたんやろ。わしが辞めろいうたて」
「嘘は大切な人なくすで」
自分を利用されて嘘つかれても怒りはしない、でも悲しそうに。
不器用な短い言葉だけど、勝二さんの滲み出る人柄にじんわり。
本当に羨まれるような幸せな夫婦生活送ってたんだろなあ……
役者さんの歳の差も役に取り込まれている気がします。
麻田さんや勝二さんの一言。
ありふれた単純な助言なのだけど、ドラマ全体に沁み渡っているのを感じました。
そんな辛い体験を過去に学んできたおじさんたちの言葉。
物語を動かす原動力なっている。
●メイドインジャパン
すみれたちもなかなか不穏なのですが。
こっちもなかなかどうして。
潔の販売している製品(靴下)を見ていたらあることに気が付いた五十八パパ。
ゴムのところを引っ張ったらすぐに伸びきってしまった。
「メイドインジャパンやからしかたないんです」
「そういう問題やないがな。メイドインジャパンが粗悪品の代名詞やなんて…」
五十八パパは表情を濁して、潔にどんな商売をしているんだと問い詰めます。
俯くしかない潔。
亡き野上と共に坂東営業部として別品をこしらえてきた五十八パパンからしてみたらショックでしょう。
ましてやすみれの別品を見たあとに、栄輔の言葉で在りし日を思い出したあとだと尚更。
●対峙、根本
そこにパッチワークに使う布を探しに来たすみれがやってくるのですが、何やらバラックの中で口論する声が。
「ゆり、無理を言うな」
「どっちが無理ですか。だってあの人たちはこの土地の持ち主でもない、何でここで商売をするのにあの人たちに場所代を払わないといけないんですか」
そんなことは潔だってわかっているだろう、と五十八パパ。
でも現実ここでどうにかしていかなきゃいけないという気持ちなのだろうと。
じゃあなぜ根本たちの言うことに従わなければいけないのか。
じゃあわかった、と五十八さん。
「お前が表に出て話をして来い」
「文句ばっかり言うて何もせえへんのは卑怯やないか?」
そうしてゆりは闇市の元締め・根本に話をつけにいくのですが……
ゆり姉ちゃん。
潔が逮捕されたときは死んだ魚の目をしていましたが、だいぶ復活した様子。
潔にお商売の指南をする父の姿に何か触発されたのでしょうか。
かつての坂東営業部を再興させるため──
そうして立ち向かった根本たち。
「どうして闇市の場所代をあなたが取るんですか?地主さんでも大家さんでもありませんよね」
「声が小そうでよう聞こえんわ」
ゆり、がんばれえ……
後ろに潔や五十八たちがいるとはいえ、ガラの悪い男たちに大声でこうも言われてしまっては恐いよね。
震えるよね。
さすがにここでストップに入った五十八パパ。
「世の中には理屈で通らんこともある。商売やっとったらそんなことの連続や。そういうこととどないして対峙していくか、どないして解決するか。打開策が見つかるかどうかでその先が違うてくる」
五十八の言葉を背に、ゆりはうなだれます。
夕方。
「やりすぎてしもたかな」
綺麗ごとだけじゃない世の中を知ってほしかったが少し荒療治すぎたかもしれない。
溜息をつく五十八さんに、忠さんがいいます。
「間違うてたかそうやなかったかわかるのはまだまだ先のことと違いますか」
「だんなさまは背中でみせてやってたらええんです」
忠さんはかつてのお嬢様・ゆりの生活を思い涙が耐え切れず……
「それにしても…闇市にほとんどおなごなんていてないやないですか」
うん?
おやおや?
五十八パパ何か打開策をひらめいた?
●同志だから、信頼しているから
英語のラジオを聞く気にもならないゆり。
そのゆりの溜息を聞いていた潔が声をかけます。
「やっぱりゆりはおもろい女やなあ。わしが言いたいことを全部言うてくれたわ」
しかしゆりは、潔の態度がどうしても気に入らない。
どうして相談をしてくれないんだ、と。
「同志やから、信頼してるからこそ細かいこといちいち言わへんのや」
「わしとゆりは似てる。せやから結婚したいと思うたんや。今は苦しいやろうがついてきてくれ」
似てるって……
じゃあ潔、あんたは「今は黙ってついてきて」で「はいわかりました」と納得するのかい……
●急がば回れ
すみれが端切れをもらいにやって来たら何やら話し合っている大阪の面々。
話題は潔の商売と坂東営業部のこと。
安かろう悪かろうの精神でとにかく坂東営業部の再興をめざす潔。
その場すらも乗り切れないかもしれない、とやんわり伝えます。
「この状況の中、お義父さんならどないするんですか?」
「わしやったら保証をつける。これはええもんやとほんまに自分で言えるもんしか売らん。そして信用を得る」
「焦るな。『急がば回れ』。それが商売の…いや人生の基本や」
どんな砂利道でもいばらの道でも迂回路でも。
進むべき道があることが幸せな事。
それは人生でも商売でも一緒。
五十八パパの言葉はゆりだけでなくすみれにも。
良子ちゃんや明美ちゃん、君枝ちゃんにも。
今はみんないろんな思いがあってバラバラになりそうだけど、一歩ずつ歩いていこう。
五十八の言葉で潔とゆり、どこか解放されたような笑顔を取り戻したように見えました。
以前すみれの言葉を待てなかった五十八さんだったら、『急がば回れ』とは出てこなかったでしょう。
五十八さんもまた一歩ずつ歩いている。
●おかえり
別な日。
パッチワークのデザインをランディ夫婦に出しに来たすみれたち。
表へ出ると、君枝ちゃんを呼ぶ声がありました。
君枝ちゃんの旦那さん・昭一さんが帰ってきました。
走らない、具合悪くなったらどうするんだと言われながらも駆け寄る君枝ちゃん。
一言で「ああこの夫婦も仲がいいんだな」と。
よかったね。
スケッチブックを投げて夫に駆け寄った君枝ちゃんを眺めていたすみれと明美ちゃんでしたが……
「旦那さんが帰って来たらこんなことになるんやな」
明美ちゃんは一言多いんだよおお……。
良子ちゃんに続き君枝ちゃんにも旦那さんが帰ってきた。
なのに紀夫が帰ってこない。
友人の幸せがチクリと心に刺さる。
●お父様の背中
良子ちゃんも君枝ちゃんもいない。
明美ちゃんがいるけれど、テーブルクロスの納期は迫っている。
すみれが端切れを受け取りに潔たちの元へやってきたとき、五十八パパは何かを考えていました。
「負けっぱなしは性に合わん」と立ち上がって向かった先は、根本のところ。
「そちらさんがやってらっしゃることは、日本の未来のためにならんっちゅうことは判ってはりますよね?」
「人が集まるとこは誰かが仕切らんと秩序っちゅうもんが守られんのじゃ」
だがそのしきり方が違うのではないか。
ただ弱いものから吸い上げているだけではないのか。
根本はそれが自分たちのやり方だと言いますが、五十八はそのやり方が日本の未来にはならないと言います。
「未来ってなんや!何もないやないか」
「何かて何や?」
すごむ根本。
潔、ゆり、すみれもかたずをのんで見守ります。
「この闇市で生き残るためには、未来のためには、まず手と手を取り合うことや」
「まず必要なんは安全や。ここを変えていくためには誰もが安心して買い物に来れるような健全な発展を目指さなあかんと思う」
「健全な市場にせな未来はない!今日明日をどう生きるか、何を食うか、今はそれだけでいっぱいいっぱいやろ」
「それでも1年後5年後もわしらは生きとる。10年後20年後は今の子供らが、30年後40年後は孫の世代が生きとるんや」
「そんな子らが…そんな子らが生きる未来を作るんは今を生きるわしらなんや!」
未来、それは子どもたちが生きるところ。
そのためには搾取ではなく、手と手を取り合って生きていくこと。
健全な発展を目指さなければいけないこと。
そして最後、根本にやるべきことをやれと伝えます。
「あなたがここのリーダーです!」
かっこいいですね、復活した五十八お父さん。
さすが元カリスマ経営者。
あの豪邸を一代で建てただけのことはある。
まさにお父様の背中。
●去っていく背中
「結婚してから一緒におるより離れてた時間の方が長かったな。これからは一緒やな」
君枝ちゃん、こんなこと言われてた君枝ちゃん。
いやとってもいいことなのだけれど。幸せなのだけれども。
もう、手伝うことはできない。
君枝ちゃん、ランディ夫妻とはお隣さんですからね。
余計に言いだすことが出来なかったのでしょう。
彼女自身自分が受けた仕事を途中で投げてしまうことに罪悪感を感じていたはず。
だからこそ
「ごめん…」
ととても短い言葉しか言えなかったのかもしれません。
唯一テーブルクロスのことを心配しているのは明美ちゃん。
いやまあ仕事ですから……
この『仕事』っていう感覚が、今の君枝ちゃん良子ちゃんには欠如しているんだなあ。
去っていく君枝ちゃん。
良子ちゃんも、君枝ちゃんも新しい生活が始まる。
チクリと心が痛むけれど、前に進んでいかなきゃいけない。
がんばれすみれ。
●次週は……
次週、第6週『笑顔をもう一度』は……
かわいいおっさんは正義。
男も女も仁義なき戦い。
関連リンク
・『べっぴんさん』4週 ヒカリノアトリエ、未来への力
・『べっぴんさん』3週その2.前へ進め、歩いていけ
・『べっぴんさん』3週その1.こじょうちゃんとの決別
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・朝ドラ感想記事のまとめ
『精霊の守り人』『ちかえもん』『映像の世紀』他、大河、Nスペ、BSプレミアムのまとめ。
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『重版出来!』『天皇の料理番』『新釣りバカ日誌』など民放ドラマ、映画などなどのまとめ
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●まっすぐに生きなさい
めでたく開店、ベビーショップあさや。
お客さん第1号は五十八パパンと忠さんでした。
君枝ちゃん、良子ちゃんとは会ったことがあるのですが……あれ、あの子は誰?なのが明美ちゃん。
忠さんが気づき、かつて坂東家に勤めていたマツさんの娘さんということが判明しました。
「いや…元気そうで。マツさんにはほんまお世話になった」
明美ちゃんに声をかける五十八パパンなのですが、明美ちゃんの心境はなんとも複雑。
「大事な大事なお嬢様と使用人の子どもが一緒に働くなんてどう思ったやろな、坂東の旦那様は…」
表のショーウインドーに飾られた上品なワンピースを眺めながら、独り言のように呟きます。
その言葉を聞いていた麻田さんは明美ちゃんに「それは言葉通りの意味だ」と話し、続けました。
「ええですか?物事はまっすぐに見るもんです。そやないとこれから起きることすべてが曲がってしまいます」
素直になりなさい。
人の気持ちをまっすぐに受け止めなさい。
明美ちゃんはすみれたちに協力すると宣言したものの、まだ身分差や貧富の差にわだかまりを抱えているのでしょう。
大きなお屋敷の大事なお嬢様、そこに仕える使用人の娘。
幼い時のクッキー事件が明美ちゃんの心に与えた傷を思うと胸が傷みます。
まっすぐに生きなさい。
実際には難しいことだけれど、まっすぐに生きてほしい。
流されないよう根を張って、風にしなるように柔軟に、優しい言葉はしっかりと栄養にして、この時代を生き抜いてほしい。
麻田さんの言葉もまた別品。
●近江商人、三方よし
商店街に新しいお店が出来た。
若い子たちが立ち上げたベビーショップらしい。
賑わう店内に早速やってきたお客さん第2号は、時子ちゃんたち。
例の西洋式おしめを手に取り、値段を尋ねるのですが……実はまだ決まっていない。
これには暖かく見守っていた五十八パパンもおこ。
「物を売るのに値段を考えてへんやて!」
考えてないのは売値だけではありませんでした。
「原価は?」
「手間賃は?」
なんだ、バザーかフリーマーケットでももう少し計算するだろww
と、ふと。
この人たちセレブだったー(ノ∀`)
よくよく考えたらお金持ちって値札とか見ないですよね。
回らないお寿司しかり。
店舗販売なら「これくださいな、おいくらかしら?」でしょうし。
そもそも店舗にすら行かないかもしれない。
お洋服も靴も職人さんのオーダーメイドなんだろうな。
セレブっていいなあ!!
値札という発想がなかったことは仕方ないとして、これからはそういう感覚を身につけなければならない。
五十八パパンがすみれたちにまず聞いたのは、理念でした。
「思いを乗せた値段をつけなさい。その上で買うか買わへんかはお客さんに預けるんや」
思いを乗せた値段をつけよう。
でもそれっていくらなんだ?
買い手の金銭感覚ってどんなもんなんだ?
迷ったすみれ。
再度来店した時子ちゃんたちが「お値段決まった?」と尋ねると
「言い値で売ります!」
ひとつ10円程度ならおにぎり我慢すればいい程度だから買える。
そんなことを話している時に響く腹の音。
腹 が 減 っ た 。
すみれもお母さんたちの苦労を察したんでしょうね。
思わず……
「はい!今日は特別に来店記念のプレゼント!サービスサービス!」
呆れ顔の五十八パパはさておき、これって試供品システム、無料サンプル商法ですよね。
情報発信力のある奥様方がモニターになり、口コミで宣伝してもらう。
しかも地元商店街で同じようにお店を営む奥様方。
商いをする者として無下なことはできないし、裁縫教室にお礼の品を持ってくる奥様方だから、積極的に周囲に広めてくれそうですし改善点なんかも教えてくれるでしょう。
品物自体はプレゼントになりましたが、結果として効率のいい広告を出すことに。
すみれ、やりおる。
でもパパンからしてみれば心配でしょうがない。
そんな五十八さんに忠さんは笑っていました。
「昔の旦那様を見るようですなぁ。商売はまず信用なんや言うて儲けなど考えずに商いをしてはりましたやないですか!」
「よう似てるなぁ」
何事もまずは信用。
利益を出すのはそこから。
元は「三方よし」の近江商人の五十八パパン。
「買い手良し、売り手良し、世間良し」。
おいおい大丈夫か?とハラハラさせておいて、でもそのやり方は近江商人の五十八と似ている。
暖かく見守ろうじゃないか。
この一連の流れが上手。
「おまえまだ値段つけられないの?何回目?」という声も散見します。
でもすみれにとってそれは難しいことなのでしょう。
序盤の高速展開にくらべてじっくりと描かれる『金銭感覚』。
このお嬢様がどうやって実業家に育っていくのか、が丁寧に描かれ始めているのだと思います。
心配されてるとはいえ一流のビジネスマンから評価されたすみれたちの理念。
あとはそれをどうやって商売に繋げていくかだ。
●麗子さんと良子ちゃん
このあとすみれたちのところにゆりがやってきて、潔が逮捕されたことを伝えます。
五十八パパンはゆりに付き添うと言う。
すみれもついていこうとするのですが、大事なお店の開店日に穴を開けるわけにはいかない。
で、3番目のお客さんはというと。
おう、なかなかパンチが効いてる。
「いらっしゃいま……」
パンチがてきめんに効いていたのは、良子ちゃんと時子ちゃんらでした。
軍人さんを連れてきた派手な女性・麗子さんに思わず身じろぎしてしまいます。
肌着を買おうとした麗子さん。
「100円…でどうですか」
「安っ!」
……さては無意識にふっかけたな?
やりおる。
しかし問題はこのあとでした。
麗子さん相手に表情も言葉も固まってしまっていた良子ちゃん
「お客様やで。お客様相手に何なん?あの態度。ほんま感じ悪いわ」
「でもああいう感じの人苦手なんやもん」
言い合いになってしまう良子ちゃんと明美ちゃん。
君枝ちゃんも良子ちゃんを諌めます。
ふてくされる良子ちゃん、なだめるすみれ。
吐き捨てるように言う明美ちゃん。
「嫌や嫌や。これやからお嬢さんは嫌なんや」
明美ちゃんの言うことはだいたい正しい。
でも正論が人を傷つけてしまうこともある。
それは多分、相性のあるリアルな人間の姿。
とはいうものの、良子ちゃんも悦子様の姿を知っていればまた違ったのかもしれません。
というよりすみれが悦子様に会っていなければ、良子ちゃんのような反応をとっていたことと思います。
じゃあモラリスト・君枝ちゃんは?というと、「はしたないお客」に顔をしかめることなく接客できている。
先週、姑さんが連れ戻そうとしたときに君枝ちゃんは戦争を契機に価値観が壊れたことを話していました。
そんな君枝ちゃんはもう「はしたなさ」も受容できる。
(ぬかりねえ脚本だ)
それにしても麗子さんの表情が優しい。
赤ちゃんのために肌触りのいい肌着を求めて、そのためなら出費は惜しまない。
自分はなりふり構わずに軍人さんに媚売って生きてるのに、子どものためならいいものを。
かつてすみれが話していた「自分のものなら我慢するけど、子どものためならいいものを買う」をそのまま表しているような。
●ちびっこ3人
ところで、3人のちびっこはどうしているかというと。
先週ちらっと喜代さんが面倒みているカットがありました。
3 人 ま と め て ! !
いくらなんでも大変だろ……と思っていた矢先の月曜。
忠さんとすみれのやりとりでその経緯が明らかになりました。
「こどもたちは?」
「喜代さんが見てます」
「3人とも?大丈夫?」
「心配したんだけど大丈夫っていうから」
「ありがたいこっちゃ」
時間差だが世間の声回収しよった。
初日終わって子どもたちを迎えに行って、喜代さんありがとう、いえいえどういたしまして、で終わると思いきや。
「龍ちゃんええ子にしてた?」
「ええ子やったね」
「ええ子やないよ、フフフッ」
やんわりやんわり、「いくらなんでも大変過ぎです」と伝えておく喜代さん。
店を貸してくれている麻田さん(多分賃料払ってないな)や大変だけど子どもたちの面倒を見てくれている喜代さん。
周りの大人たちが今は支えてくれるけれど、でもきちんとそこに感謝しような。
きちんと自分たちの足で立っていこうな。
喜代さんがしっかり「ちびっこ3人とか大変ですから!」って伝えられてよかったです。
●不穏
潔が逮捕、連行されてしまったゆり姉ちゃん。
不安に駆られて神戸にやってきて、そのまま五十八に付き添ってもらって警察署。
(またひとりだけ作画の違う高良健吾よ)
栄輔も警察署に、と思ったら五十八パパンと突然の握手会。
「坂東五十八さんですか?ああ…握手して下さい!感激や!」
「まあそれだけええ時代やったいうことや」
五十八パパかっこええ。
かつては多くの人から慕われた一流のビジネスマン。
ヒューヒュー言われても「それはそういう時代だったから」と。
近江商人・坂東五十八、カッコいいぞ。
しかし問題は目の前のゆり。
「だから言ってたのに。こんな警察に捕まるようなことやめてって。潔さんがいなくなったら私…」
努力家で元気で、知性も夢もあったしっかり者の長女が縮こまってしまっている。
五十八が見たのはそれだけではありませんでした。
潔はすぐに釈放されて闇市のバラックに帰ることに。
「大事な娘がこないなとこにおるやなんてって…思うてますよね」
「そんなこと思うてない」
時代に順応している五十八は、闇市で生きることに対しては思ってはいないでしょう。
むしろ心配なのは娘のこと。
一同が驚いたのは荒らされたバラックでした。
根元の手下、玉井たちの姿。
「場銭払わん店は片付けても片付けてもこないなふうになるらしいで」
場銭を払うと言って追い払う潔。
ですが玉井は向かいのおじさんたちに絡み始めます。
あいやータマネギ皮ごとはきっつい。
ほらー飲み込めてない。
(役者魂ってすごい)
場銭300円を払うことができないおじさんたち。
玉井らのやりかたを見かねた潔が止めに入り、おじさんたちも自分らの仲間だから場銭をとる必要はないと怒鳴ります。
そのやりとりを眺めていたのが、闇市の元締め・根本。
根本の姿を目視する五十八。
五十八と根本、何かありそうだぞ。
それにしても300円の場銭が払えないおじさんたち。
100円の肌着を安いと言って購入する麗子様。
すみれや明美ちゃんたちの間だけではなく、間接的に描かれる経済格差が切ない。
麗子様がプライドを切り売りして母子ともに生きるためにその高収入を得ているのかと思うと余計に切ない。
●内はそういう星の下に生まれたんや
そのころ明美ちゃん。
勤め先の病院で解雇宣告を受けていました。
(海原かなた師匠、『あさが来た』『マッサン』に続いたまたお断りする役)
元勤めていた医師や看護婦が外地から復員し、人員整理が必要になったという。
真っ先にその対象になったのは、独身で子供もいない若い看護婦。
「キミは独り身やろ?君は若いし、ひとりやったらなんとかなるんやないかな」
あーあーあー、君独り身だもんねー、急性期病棟いけるよねー、夜勤多くても大丈夫だよー、あっ人手足りてるから減らすよー。
ってあるあるー超あるあるー(胃が痛い
言い返す言葉があるわけがない。
「何でやろか…何でうちが…」
ここまで頑張ってきた。
でもいつだって優先されるのは家族のいる人たちだ。
旦那さんがいて、お子さんがいて。
独り身は『おまえは自由に動けるだろう』と追い出されてしまう。
家庭のある人と同じくらい、生きるのに必死だというのに。
寮を出されてしまったら、今日眠る布団もないというのに。
その夜、明美ちゃんはあさやさんに打ち明けました。
「うちはそういう星の下に生まれたんや」
そういう考え方はよくない、と麻田さんは明美ちゃんを諭すのですが……
●だってあの人看護婦さんでしょ
明美ちゃんを取り巻く闇の深さは底知らず。
すみれたちがランディ大佐(君枝ちゃんたちが元住んでた本宅に住んでる軍人さん夫婦)からテーブルクロスの制作を請け負ったとき。
打ち合わせの細かい部分をすり合わせるのに、明美の英語力が必要になりました。
が、問題は良子ちゃん。
なんだなんだ、言いたいことがあるのか、と顔をしかめる君枝ちゃん。
明美さんの言っていたことは間違いではないだろう、と。
でも良子ちゃんも言い返す。
「何でそんなこと言うのよ」
「私はあの人好かんのよ」
だって好きじゃないんだから仕方ないじゃないか。
「4人って言うてもあの人は看護婦さんでしょう?」
この『あの人ナースでしょ』がえぐく刺さりました。
良子ちゃんの言葉の裏には何が隠れているのか。
働くこと、女性が働くこと、女性が手に職持って働くことへの偏見ならまだいいんです。
しかし看護婦の歴史を振り返ってみると、社会的地位が確立されたのはごく最近の話です。
物語は今昭和20年代。
明美ちゃんは確かに手に職を持っていますが、じゃあ社会的地位があるか?と言われればそれは微妙なところかもしれません。
良子ちゃんの言葉には「看護婦という仕事への職業差別」があるんじゃないかな。
そんなことをふと考えてしまいました。
うーんこれは暗い。
さらに物語に暗さを落としているのが、その職業への偏見は現在進行形であるということ。
「昔の看護婦の扱い」は「現代の介護福祉士の扱い」でもあるってこと。
「若い女性からクビ切られるのあるあるー」とも言いましたが、これはドラマの中・昔の話ではない。
うーんこれは真っ暗。
過去の暗さだけでなく現在進行中の暗さも含まれる。
明美ちゃんの部分だけではありません。
みんな現代の暗い部分に通じるんだよなあ。
こりゃあ暗いわな。
世間で言われる「『べっぴんさん』は暗い!」の理由がなんとなくわかりました。
時代の暗部がどう明るく照らされていくか。
歪曲して描かれるのも、そうじゃない感が溢れでてしまう。
とはいえ、くさいものに蓋をしない物語。
がんばれすみれ。
●ごちそう、おイモの煮汁
暗雲立ち込めるベビーショップあさやですが、ある男がやって来ました。
良子ちゃんの旦那さん・勝二さんが帰ってきた。
あのよさそうな時計を贈った15歳年上の旦那さん。
良子ちゃんに家族団欒が帰ってきました。
「毎日おイモをふかすでしょう?使い続けていると蒸し器の底の水が蜜のように甘くなるの。今日は勝二さんが帰ってきたお祝いよ」
「要らん。龍一に全部食べさせてやってくれ」
塩鮭の配給もあった、この煮汁も美味しいから食べてほしい。
いや、自分のために特別なことはしないでほしい。
物は少ないけど精一杯の御馳走を食べてほしい。
小さな小さな生活の知恵。
でも夫はそれを受取ろうとしない。
上海での話を拒む勝二さんと、数年間帰還を待ち焦がれてきた良子ちゃん。
2人の間に吹きすさぶ隙間風。
それを察知したのか、良子ちゃんは勝二さんと一緒にいる時間を増やそうと、唐突に言いだします。
「明日はお店に行くのやめるわ」
しかし勝二さん。
「わしのことは気にせんと行きなさい。休まんほうがええやろ」
仕事なのだからそんな理由もなく休むんじゃない。
思えば「ええよ、ええよ」と不器用ながら優しかったという勝二さん(良子ちゃん談)。
良子ちゃんはそんな勝二さんのことが大好きなのでしょうし、勝二さんも良子ちゃんのことを好きだから妻のやることを応援したい。
時計を贈り合うそんな仲睦まじい二人だったのに、今は隙間風がふいている。
名脇役の田中さん、それからアイドルでもある百田さん。
実際は15歳どころか30歳くらい年の離れているお二人ですが、会話の間にある隙間がずっしり来ます。
●一言多い女たち
翌日。
すみれと明美ちゃん、君枝ちゃんはランディ大佐の家に向かいます。
パッチワークのテーブルクロスを製作すると決定し、帰り道笑顔を浮かべる3人。
その前に現れたのは、店番をしているはずの良子ちゃんでした。
「私…辞める」
自分たちが留守中に一体何が起きたのか。
「分かった。お客様に怒られたりしたんちゃう?」
「違う。そんな事ではありません」
ピリピリと口論モードになる明美ちゃんと良子ちゃんですが。
良子ちゃんは続けて言いました。
「主人がうちにおってほしいて」
勝二が勤めていた造船会社は空襲の被害に遭ってなくなってしまった。
これから仕事を探すことになるけれども、うちの主人のことだからすぐに決まる。
これにカチンときた明美ちゃん。
「ええなあ、羨ましいわ。奥様はのんきで」
「何よ…悔しかったら自分も奥さんになればいいのに」
「おあいにくやけどうちは仕事持ってますから」
良子ちゃんも明美先輩も……
おまえらウソこけえ!!!!
明美ちゃんあなたクビになったでしょ?
良子ちゃん、あなた旦那さんそんなこと言ってなかったでしょ?
「私の方が幸せよ」「いや私の方が」とお互い嘘までついたマウンティング。
今の明美ちゃんからしてみたら、良子ちゃんのこの発言は心底腹が立つでしょう。
家族のある人、家庭のある人がみんな敵。
すみれは君枝ちゃんはまだマシに見えるかもしれないけれど、良子ちゃんは……
「夫帰ってきましたー、辞めまーす」
「あなたも結婚したらいいじゃないwww」
ゴミに見えてるかも可能性もある。
良子ちゃんも良子ちゃんで大概だけれども、そもそもは明美ちゃんだった。
「うちはそういう星の下…」と言っていた悲しみから、隣の芝が青く見える憎しみ。
気持ちが弱ってしまっているときに、そういう負の感情が出てくるのあるある。
旦那がいる幸せvs仕事がある幸せ、と字面にして現代版のそれを想像するとドロドロ昼ドラ案件で眩暈がしてくるのですが。
良子ちゃんと明美ちゃんのやりとりは「おまえら一言多いわ」で済んでしまう。
だってまだ嘘ついてる段階だし。
ドロドロ女同士のマウンティング大会っていうよりも。
子猫が「お前ムカつく!」「おまえのほうが腹立つ!」と言ってるの喧嘩くらいのゆるさを感じます。
(渡辺さんが本領発揮したらもっとヤバいはず……)
しかしまあいきなりの暗礁ドーン。
超高速で青春時代・新婚時代と駆けて、またサクサクっと店が誕生、四葉のクローバーも集結。
「クローバーがそろいました、じゃあこれから4人で明るく笑って頑張っていきm……ってそんな簡単に話が進むわけねえじゃんwww残念でしたあwww」
それもジワジワとヒビが入るような軋轢。
2週でスピード出して飛ばして描きたかったことのひとつは、「女4人集まってそう簡単に物事上手くいくわけないじゃん」だったのかもしれません。
ここからどうやって建て直して、初回アバンにまで持っていくか。
歴史とは違う物語としての楽しみです。
●隣の芝生は青く見える
良子ちゃんはそのまま辞めてしまいました。
受注したのはテーブルクロスだからここはまだいいけど、洋服などではパタンナー不在というのはどうしても厳しい。
そんなとき、沈黙していた君枝ちゃんが言いました。
「良子ちゃんがいなくなって、本当はちょっとほっとしてるところがあるの」
良子ちゃんが幸せなのは嬉しい。
でも毎日幸せそうに旦那さんのこと話されるのは嫌だ。
オートバイの君発言など良子のキャラクターからして楽しそうに話すのは想像がつきます。
君枝が笑顔のあとに「はしたないわ」と言いたげな顔してるのも想像がつきます。
「結局は嫉妬なんやけどね。あ~あ、私は器の小さな人間やわ」」
目を伏せて笑う君枝ちゃんに、麻田さんがそっと言葉をかけます。
「そういう自分を認めることができるのは器が大きな証拠です。早く帰ってくるとええですな」
良子と明美のヒリヒリするマウンティングのあとに。
君枝との良子のジワジワしみるマウンティング。
でもそれはただの嫉妬なんだよ、と。
嫉妬している自分を認めるのも大事なんだよ、と。
もちろん君枝ちゃんも麻田さんも、明美に聞かせてるわけではありません。
でも明美とすみれはこのときの君枝ちゃんと麻田さんのやり取りを聞いている。
聞かせるのが上手だなあと。
●店内飲食禁止
店にいる3人のところにやってきたのは麗子様でした。
麗子さまは良子ちゃんを探している様子。
いったいなにがあったのか、と尋ねてみると。
ひとり接客デビューしたときに限って、難しいお客様がくるのあるある。
麗子さまの話によると、麗子さまのお友達たちが良子ちゃんにきつい言葉を浴びせてしまったとのこと。
麗子さまは良子ちゃんの様子を見に来たと言っていますが、おそらくは代わりに謝りに来たのでしょう。。
良子ちゃん言いたいよね。
物を食べている手で商品を触らないでほしい、だったら「買わなくていいです」って。
でもねそれを言っちゃいけないんだよ。
ましてや購入を検討していたお客様だ。
お友達の焼き鳥も、良子ちゃんの対応もどちらもよろしくないんだけど。
麗子さまが「思ったよりいい人」だったように、お友達だって根っからの悪人ではないのでしょう。
いややっぱり店にタレの付いた焼き鳥はよくないし、お客様に買うな!もよくないんだけど。
単焦点レンズのようなコントラストあげたような画。
これ多用されると酔うのですが。
今回みたいな回想で、ピンポイントで使われるのはなかなかいい。
心情を伴った視点の動きを現すのに秀逸かなと。
良子ちゃんビジョンで何を見て何を思ったかがわかりやすいです。
●嘘はよくない
そんな体験をした良子ちゃんが嘘をついて店を辞めたこと、勝二さんは知っていました。
『アメリカ製のいい匂いのする石鹸』を持って、妻が待っているであろうベビーショップに届けるとそこに妻はいない。
聞くと「だんなさんの言葉」で辞めたという。
バラックに帰った勝二さんを、良子ちゃんが出迎えます。
勝二さんは責めるでもなく淡々と。
「嘘ついたんやろ。わしが辞めろいうたて」
「嘘は大切な人なくすで」
自分を利用されて嘘つかれても怒りはしない、でも悲しそうに。
不器用な短い言葉だけど、勝二さんの滲み出る人柄にじんわり。
本当に羨まれるような幸せな夫婦生活送ってたんだろなあ……
役者さんの歳の差も役に取り込まれている気がします。
麻田さんや勝二さんの一言。
ありふれた単純な助言なのだけど、ドラマ全体に沁み渡っているのを感じました。
そんな辛い体験を過去に学んできたおじさんたちの言葉。
物語を動かす原動力なっている。
●メイドインジャパン
すみれたちもなかなか不穏なのですが。
こっちもなかなかどうして。
潔の販売している製品(靴下)を見ていたらあることに気が付いた五十八パパ。
ゴムのところを引っ張ったらすぐに伸びきってしまった。
「メイドインジャパンやからしかたないんです」
「そういう問題やないがな。メイドインジャパンが粗悪品の代名詞やなんて…」
五十八パパは表情を濁して、潔にどんな商売をしているんだと問い詰めます。
俯くしかない潔。
亡き野上と共に坂東営業部として別品をこしらえてきた五十八パパンからしてみたらショックでしょう。
ましてやすみれの別品を見たあとに、栄輔の言葉で在りし日を思い出したあとだと尚更。
●対峙、根本
そこにパッチワークに使う布を探しに来たすみれがやってくるのですが、何やらバラックの中で口論する声が。
「ゆり、無理を言うな」
「どっちが無理ですか。だってあの人たちはこの土地の持ち主でもない、何でここで商売をするのにあの人たちに場所代を払わないといけないんですか」
そんなことは潔だってわかっているだろう、と五十八パパ。
でも現実ここでどうにかしていかなきゃいけないという気持ちなのだろうと。
じゃあなぜ根本たちの言うことに従わなければいけないのか。
じゃあわかった、と五十八さん。
「お前が表に出て話をして来い」
「文句ばっかり言うて何もせえへんのは卑怯やないか?」
そうしてゆりは闇市の元締め・根本に話をつけにいくのですが……
ゆり姉ちゃん。
潔が逮捕されたときは死んだ魚の目をしていましたが、だいぶ復活した様子。
潔にお商売の指南をする父の姿に何か触発されたのでしょうか。
かつての坂東営業部を再興させるため──
そうして立ち向かった根本たち。
「どうして闇市の場所代をあなたが取るんですか?地主さんでも大家さんでもありませんよね」
「声が小そうでよう聞こえんわ」
ゆり、がんばれえ……
後ろに潔や五十八たちがいるとはいえ、ガラの悪い男たちに大声でこうも言われてしまっては恐いよね。
震えるよね。
さすがにここでストップに入った五十八パパ。
「世の中には理屈で通らんこともある。商売やっとったらそんなことの連続や。そういうこととどないして対峙していくか、どないして解決するか。打開策が見つかるかどうかでその先が違うてくる」
五十八の言葉を背に、ゆりはうなだれます。
夕方。
「やりすぎてしもたかな」
綺麗ごとだけじゃない世の中を知ってほしかったが少し荒療治すぎたかもしれない。
溜息をつく五十八さんに、忠さんがいいます。
「間違うてたかそうやなかったかわかるのはまだまだ先のことと違いますか」
「だんなさまは背中でみせてやってたらええんです」
忠さんはかつてのお嬢様・ゆりの生活を思い涙が耐え切れず……
「それにしても…闇市にほとんどおなごなんていてないやないですか」
うん?
おやおや?
五十八パパ何か打開策をひらめいた?
●同志だから、信頼しているから
英語のラジオを聞く気にもならないゆり。
そのゆりの溜息を聞いていた潔が声をかけます。
「やっぱりゆりはおもろい女やなあ。わしが言いたいことを全部言うてくれたわ」
しかしゆりは、潔の態度がどうしても気に入らない。
どうして相談をしてくれないんだ、と。
「同志やから、信頼してるからこそ細かいこといちいち言わへんのや」
「わしとゆりは似てる。せやから結婚したいと思うたんや。今は苦しいやろうがついてきてくれ」
似てるって……
じゃあ潔、あんたは「今は黙ってついてきて」で「はいわかりました」と納得するのかい……
●急がば回れ
すみれが端切れをもらいにやって来たら何やら話し合っている大阪の面々。
話題は潔の商売と坂東営業部のこと。
安かろう悪かろうの精神でとにかく坂東営業部の再興をめざす潔。
その場すらも乗り切れないかもしれない、とやんわり伝えます。
「この状況の中、お義父さんならどないするんですか?」
「わしやったら保証をつける。これはええもんやとほんまに自分で言えるもんしか売らん。そして信用を得る」
「焦るな。『急がば回れ』。それが商売の…いや人生の基本や」
どんな砂利道でもいばらの道でも迂回路でも。
進むべき道があることが幸せな事。
それは人生でも商売でも一緒。
五十八パパの言葉はゆりだけでなくすみれにも。
良子ちゃんや明美ちゃん、君枝ちゃんにも。
今はみんないろんな思いがあってバラバラになりそうだけど、一歩ずつ歩いていこう。
五十八の言葉で潔とゆり、どこか解放されたような笑顔を取り戻したように見えました。
以前すみれの言葉を待てなかった五十八さんだったら、『急がば回れ』とは出てこなかったでしょう。
五十八さんもまた一歩ずつ歩いている。
●おかえり
別な日。
パッチワークのデザインをランディ夫婦に出しに来たすみれたち。
表へ出ると、君枝ちゃんを呼ぶ声がありました。
君枝ちゃんの旦那さん・昭一さんが帰ってきました。
走らない、具合悪くなったらどうするんだと言われながらも駆け寄る君枝ちゃん。
一言で「ああこの夫婦も仲がいいんだな」と。
よかったね。
スケッチブックを投げて夫に駆け寄った君枝ちゃんを眺めていたすみれと明美ちゃんでしたが……
「旦那さんが帰って来たらこんなことになるんやな」
明美ちゃんは一言多いんだよおお……。
良子ちゃんに続き君枝ちゃんにも旦那さんが帰ってきた。
なのに紀夫が帰ってこない。
友人の幸せがチクリと心に刺さる。
●お父様の背中
良子ちゃんも君枝ちゃんもいない。
明美ちゃんがいるけれど、テーブルクロスの納期は迫っている。
すみれが端切れを受け取りに潔たちの元へやってきたとき、五十八パパは何かを考えていました。
「負けっぱなしは性に合わん」と立ち上がって向かった先は、根本のところ。
「そちらさんがやってらっしゃることは、日本の未来のためにならんっちゅうことは判ってはりますよね?」
「人が集まるとこは誰かが仕切らんと秩序っちゅうもんが守られんのじゃ」
だがそのしきり方が違うのではないか。
ただ弱いものから吸い上げているだけではないのか。
根本はそれが自分たちのやり方だと言いますが、五十八はそのやり方が日本の未来にはならないと言います。
「未来ってなんや!何もないやないか」
「何かて何や?」
すごむ根本。
潔、ゆり、すみれもかたずをのんで見守ります。
「この闇市で生き残るためには、未来のためには、まず手と手を取り合うことや」
「まず必要なんは安全や。ここを変えていくためには誰もが安心して買い物に来れるような健全な発展を目指さなあかんと思う」
「健全な市場にせな未来はない!今日明日をどう生きるか、何を食うか、今はそれだけでいっぱいいっぱいやろ」
「それでも1年後5年後もわしらは生きとる。10年後20年後は今の子供らが、30年後40年後は孫の世代が生きとるんや」
「そんな子らが…そんな子らが生きる未来を作るんは今を生きるわしらなんや!」
未来、それは子どもたちが生きるところ。
そのためには搾取ではなく、手と手を取り合って生きていくこと。
健全な発展を目指さなければいけないこと。
そして最後、根本にやるべきことをやれと伝えます。
「あなたがここのリーダーです!」
かっこいいですね、復活した五十八お父さん。
さすが元カリスマ経営者。
あの豪邸を一代で建てただけのことはある。
まさにお父様の背中。
●去っていく背中
「結婚してから一緒におるより離れてた時間の方が長かったな。これからは一緒やな」
君枝ちゃん、こんなこと言われてた君枝ちゃん。
いやとってもいいことなのだけれど。幸せなのだけれども。
もう、手伝うことはできない。
君枝ちゃん、ランディ夫妻とはお隣さんですからね。
余計に言いだすことが出来なかったのでしょう。
彼女自身自分が受けた仕事を途中で投げてしまうことに罪悪感を感じていたはず。
だからこそ
「ごめん…」
ととても短い言葉しか言えなかったのかもしれません。
唯一テーブルクロスのことを心配しているのは明美ちゃん。
いやまあ仕事ですから……
この『仕事』っていう感覚が、今の君枝ちゃん良子ちゃんには欠如しているんだなあ。
去っていく君枝ちゃん。
良子ちゃんも、君枝ちゃんも新しい生活が始まる。
チクリと心が痛むけれど、前に進んでいかなきゃいけない。
がんばれすみれ。
●次週は……
次週、第6週『笑顔をもう一度』は……
かわいいおっさんは正義。
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