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知らないうちに辞めたがる若者たち

2020-05-22 | 仕事

今でもなお、大卒の約3割は3年以内に離職しているこの国に、突如訪れた”コロナショック”が、今後若者の仕事観にどう影響するのでしょうか。
リモートワーク、ソーシャルディスタンスに象徴される”新たな生活様式”が、これまでの働き方を大きく変えることは明白ですが、最も注力すべきは、これから本格化する世界規模の難局を、どう乗り越えるかという課題ではないでしょうか。

「明日は今日、無名の人たちによってつくられる」
いつの時代もそうであったように、苦難の中から人類は立ち上がり、新たな時代を切り拓いてきました。
この言葉は、その主役が、政治家や官僚や大学教授ではなく、勤勉に働く普通の人たちであることに敬意を抱いていたドラッカーの言葉です。(P.Fドラッカー著『マネジメント・フロンティア』)

この言葉を今まさに体現している私たちは、一人ひとりの勤勉さと、利他の精神を問われているのではないでしょうか。
そこで、あえて経営者や管理職の地位にある人に、もう一度「若者の離職」について、足元から考えてほしいと切に願います。

急に「辞めます」と言う若者たち

昨日まで元気に働いていた若者が、急に「今月で辞めます」と言いながら退職願を出しに来た。

週明けに突然無断欠勤した若者に連絡が取れず、翌日に親から電話があり「辞めたいと言ってますので…」と告げられて、そのまま退職になった。

午前中はいつも通りに作業をしていた若者が、昼休みに無断で帰宅し、翌日に退職届を持参して「辞めたいです」と告げてすぐに帰ってしまった。

この事例は、かつて私がハローワークで求人企業の相談窓口で、実際にあった話として聞いたエピソードの一部ですが、巷でもこのような事例は星の数ほどあると思います。

若者は離職へのカウントダウンが速い

かつて行った、実際に早期離職した若者を対象としたアンケートから分かったことは、離職へのカウントダウンがとても速いということです。このような若者をどう捉えるのかは、立場によって様々だと思いますが、少なくとも部下をマネジメントする立場にある人は、こういった傾向があることを頭の隅にでも置いておいた方がよいと思います。

アンケートでは、辞めようと思い始めて実際に行動を起こした期間は、つい最近(1週間以内)が一番多く、次に半年以内という結果でした。
つまり、衝動的に辞める若者が多いということですが、当事者と話してみると、その共通点も見えてきました。
それは、良き相談相手が社内にいなかったという共通点です。
私が出会って来た早期離職者のほとんどは、離職について悩んでいることを、社内で相談した人はいないと言います。その理由は、どうせ自分が悪いと言われてしまうから、ということでした。

相談の場は、突如として説教部屋に変化します。
若者にとって良き相談相手になるには、どんなに不条理でも、まずは言い分を黙って聴き、共感することから始まります。しかし、多くの先輩社会人は、自戒の念も込めていつも正しいことしか言わないものです。

離職の道も、小ささなことの積み重ね

早期離職した若者にみられる共通点は他にもあります。
それは、一見とても些細で小さな出来事の積み重ねが、一気に離職への扉を開けるという点です。

例えば、仕事の覚えが悪いことを叱られた際に、大きな声で怒鳴られたなどがその典型例です。
指導する側からすれば、「相手のためを思うから」という理屈です。仮に怒鳴ったことを他者に指摘されても、ちょっと感情的になっただけで些細なことだと一蹴されるようなケースですが、当事者には重くのしかかる言動となります。しかも当事者は自分の方が悪いので叱られて当然だと思う分、反論もできず、ただ我慢するしかありません。
しかし、何度も似たようなことが繰り返されれば、反省の域を超えて、その指導者を恐れるようになり、行動の改善はないまま突然辞めるという衝動が湧いてくるのです。
実際に辞めるか否かはさておき、この様な経験は少なからず誰しもあるのではないでしょうか。

他にも、説教された、舌打ちされた、睨まれた、目をそらされた、見下すように笑われた、飲み会でからまれた、妙に近付いてくる、根掘り葉掘り質問されるなどの例もあります。
一つ一つは、確かに離職に直結するような事にはならないと思いますが、急に辞めると言いだす若者は、必ずといっていいほど、この様な小さなことの積み重ねを経験していることを、部下をマネジメントする立場にある人は、知っておいた方がよいと思います。

もちろん、指導者も後で気づき、上手くフォローすることができれば、いくらか軽減するはずですが、多くの場面では当事者(された側)にしか残らない記憶となって、徐々に蓄積されるのです。

とても分かりにくいサイン

この様な、小さなことの積み重ねから離職に至るケースでは、当事者が実際に行動に起こすまでその兆候はほとんど分かりません。
なぜなら、当事者の記憶にしか残っていない言動の積み重ねなので、当然指導者には見当がつかないのです。むしろ、自分は目にかけてやったのに・・・などと思うケースがほとんどです。

そして、当事者も「出来ない自分が悪い」という罪の意識のようなものがあるがゆえに、頑張ろう!とはならず、自分が身を引けば、会社に迷惑をかけずに済むという理屈になっているのです。

早期離職者の多くは、そんな状態になって、日常を知らない管理者や経営者のところに、ある日突然「辞めます」とやってくるのです。
先述の様な事例がまさにそうで、管理者も経営者も、さらには同僚も、まったく気配も感じなかったというエピソードは、私の様な仕事をしたことがある人なら、何度も聞くことです。

心のソーシャルディスタンス

早期離職者についての考察は、当然ながらここに記載したことだけではありません。
これを読んだ人の中にも、そんなの考えが甘い、その程度なら辞めた方がいい、それを我慢するのが社会人だ、学生気分が抜けていない、個人の問題だ、などという意見を持つ方も多いと思います。

私はそれを否定するつもりはまったくありませんが、当事者である若者自身が、一番何とかしたいと思っているのは間違いありません。そんな風には見えないかもしれませんが、一番苦しんでいるのは当事者である若者なのだということを伝えたいのです。

コロナショックがもたらした”新しい生活様式”の象徴ともいえるソーシャルディスタンスが、今何かと話題になっていますが、心までソーシャルディスタンスになっていませんか?

脅威となるウィルスの感染を防ぎ拡散しないように配慮することは当然ですが、物理的な身体の距離間が、心の距離感まで遠ざけないようにしたいものです。
私たちは、ウィルスを見ることが出来ない分、恐怖や不安から不審を招いたりしがちですが、誰もが相手を思いやる利他の気持ちを持っているのも事実です。それもまた見ることが出来ない分、伝わりにくい気持ちです。だからこそ、これからは「ダイアローグ(対話)」がより一層大切になると思います。

冒頭に紹介したドラッカーの言葉の通り、今こそ”普通の人たち”が活躍する時です。