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映画「アンブロークン」寸評(ネタバレ有り)

2015-03-30 04:46:08 | essay
※注
ネタバレがありますが、どんでん返しを楽しむ映画ではないので、これを読んでから見ても問題ないとは思います。
ただ、ストーリーやシーン等について予備知識を持ちたくない方は読まない方が良いでしょう。
トレーラー見るだけでも分かっちゃうレベルですけど。


アンジーの「アンブロークン」見せてもらいました。
町山智宏の言っていた通り、全く反日映画ではありませんでしたし、食人シーンもそれに関連した台詞もナレーションもありませんでした。
原作にはあるそうですが映画には無いので、それを以て映画を批判するのは的外れでしょう。
最初と最後に強調されていますが、この映画の主旨は反日どころか赦し愛すことの尊さです。
僕は日本という国を大切に思う人間ですが、この映画を見ても全く不快にはなりませんでした。


映画の中に、東京にあった「大森俘虜収容所」(東京俘虜収容所本所)が登場します。
そこで看守だった"The Bird"こと渡邊睦裕伍長が極めて冷酷で捕虜を虐待する訳ですが、これは事実であったようです。
当時の看守へのインタビュー動画を見ましたが、同僚も渡邊を極めて暴力的だと見做していました。
また彼自身も軍の命令ではなく個人の判断として暴力を振るったことを認めています。
戦争末期、後方部隊の収容所配属兵なんてきちんと管理されていなかったのは想像に難くありません。
当然、捕虜虐待は日本軍の軍紀違反ですし国際法違反でもありますから、彼は戦犯であり、戦後指名手配されましたが、米進駐軍が日本を離れるまで逃げ延びたそうです。
とんでもない爺ですね。
他にもこの人には色々胸くそ悪いことがありますが、2003年に死去していますから、これ以上は書きません。


さて、この「アンブロークン」、映画としてはつまらんです。
渡邊をギターリストのMIYAVIが演じているのですが、キャラが立ちすぎて完全に映画を喰ってしまっています。
演出に関しては本当に酷いですね。
ステレオタイプ、予定調和、ここに極まれりといった感。
アンジーの監督としての才能にはかなり疑問を持ちました。
中性的なルックスのMIYAVIの見せる冷酷な表情を鑑賞するという他には特に盛り上がるシーンも無く。
冷酷と言っても、ゾッとするようなおぞましさが有る訳でもなく。
あとtrue storyという割にはディテールが甘過ぎるようですね。
なんでたかが伍長である一看守が収容所所長であるかの如き振る舞いなのか、その点だけを見ても、事実を大切に描くつもりは無いんだなと言うのが分かってしまって残念です。
感情が大きく絡んでくる重大な問題というのはそのディテールが大切なんです。
核心に繋がる細かな描写を疎かにして大きな問題は語れないと思います。
他の看守達は渡邊を嫌っていたという一点が描かれているだけでも、観客にはもっと深い問題意識を持ってもらえるでしょう。
セット丸出し感は単純に予算の問題でしょうし、主題には関わってこない細部なのでまあどうでもいいです。


僕がこの映画を見て本当に良かったなと思えるただ一つの点は、ラストシーンです。
実際の映像が使われています。
この映画を見ることがあれば、最後までちゃんと見て下さいね。


Unbroken Official Trailer #1 (2014) - Angelina Jolie Directed Movie HD
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渡邊さんご本人
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