11月11日 くもり
朝9時…父からの携帯が鳴る。
「麻衣子(妹)が、まだ来ない…時間が過ぎている」
10時の退院予定で、一時間早いと伝えたが、
非常に機嫌が悪い。
これはジョーダンも通じないと思い、電話でなだめて
何とか切った。
父の兄も…本郷町から駆けつけてくれ
10時に総合病院を出発する手はずであった。
しかし…総合病院で最期のトラブル発生…
退院手続きが行われていなかったのである。
正直…そのことを妹から聞いた時
呆れてものが言えなかった。
怒りは通り越し、
「もうほっとけや…
シムラ病院に10時30分で約束しとるんじゃけん
行こうや…」と、言い支払いも後日にした。
シムラ病院に向う道中…
葬儀場であるマントクホールの近くを通った。
父がよく通った仕事場である。
もう二度と…生きて通れんだろうなと…内心思った。
平和大通りを通り、平和公園前を通過し、シムラ病院に着いた。
病院に着くと…完全個室の部屋に入院した。
それまで4人部屋で、気を遣い過ぎた父は…
本当に喜んだ。
「これは勿体ない・・・広くていいとこじゃ…」
職員さんから親切な説明があった。
「河内さんこんにちは…ここでは河内さん快適に過ごして下さいね。
ペットの持ち込み、たばこ…1日3本までいいですよ…
お酒も良かったら、しっかり飲んで下さいね・・・」
父は満面の笑みを浮かべた。
「酒やタバコが吸えるし…嬉しいの~」
妹も…
「お父さん良かったね・・・嬉しいじゃろう…」
と、笑った。
しかし…父の兄は…
その言葉の意味が…辛かったのであろう。
一切笑わなかった。
その後…
「お父ちゃん…おじちゃんと一杯飲んでくるわ…」
と、伝え…おじと昼間から酒を飲んだ。
飲まないと互いにやってられなかった。
広島駅の居酒屋で…今後の話をした。
「おじちゃん…親父の葬儀じゃが…」
おじは黙って聞いていた。
「オマエは息子じゃから・・・色々心配するじゃろう。
わしも…あいつは弟じゃけん…オマエと同じくらい心配じゃ。
なんせ…8人兄弟で残ったのは、あいつとワシだけじゃ…
5歳も上のワシを置いて…何でアイツが死なないといけんのじゃ…」
おじは目を真っ赤にして言った。
父の兄弟の結束は本当に強い。
特に…このおじに対しては、父は逆らうことが一切なかった。
いつも…アニキ、アニキと呼んでいた。
「アニキが今日来るんけん…悪いが今日頼むでェ…」
時折…本郷から広島に来るおじと飲むとき
父は最高に機嫌がよかった。
そのおじと…「おじさんと飲むけん…」とシムラ病院で言ったとき
父は…「アニキ…ワシが行けんからゴメンのぉ」と言った。
おじは…
「孝二・・・早うようなって行こうでェ~」と答えた。
シムラ病院緩和ケア…
ここでの父は…総合病院で見せたことがない
最高な表情を見せた。
「ええ病院に連れてきてくれて
ありがとう…」
そう言われたとき…涙が止まらなかった。