(ヒマラヤの蜂蜜)
話を少し前に戻す。
殿に会うために、ご主人様は君津バスターミナルから高速バスに乗り東京へ向かった。
この日はだいぶ疲れがたまっていたようで、本を読む気力が出てこない。
こんな時はアイパッドにインプットした歌を聴くのが良い。
さて、殿に会いに行く時に聴く歌は何が良いか・・・・・
「高校三年生」ではだめだ。テンションが上がらない。
歌のリストを眺めていたご主人様の目に留まったのは、中島みゆきの「地上の星」だった。
「そうだこの歌だ、この歌でなければダメだ」
イヤホンをしたご主人様の耳に、あのイントロが流れてきた。
ご主人様の背筋に鳥肌が立つ。
そして脳みそが溶け始める。
魂を揺り動かさずにはおかないその歌を、2回、3回と聴いた。
次にご主人様が選曲したのは、「昭和枯れススキ」であった。
何故この歌なのか?
冬の寒い夜に、デンバーの場末の韓国カラオケレストランで、殿はこの歌を熱唱していたのだ。
これほど切ない歌はない、と、ご主人様はその時思った。
切ない人生を歩んできた男が、一人しみじみ唄う歌はこれ以外ない、と、思った。
その男が、今、世界巡礼の旅を続けている。
タイ、フィリピン、ミャンマー、バングラデッシュ・・・・・・
それにしても・・・・、とご主人様は考えている。
日本人はどうしてこんな切ない歌が好きなのか・・・・。
おそらくアメリカ人はこんな切ない歌は唄わないだろう。
日本人はその切なさを楽しんでいるのかもしれない。
その切なさに酔いながら人生に耐え、そして頑張ってしまうのである。
そんな不可思議なニッポン人が不思議な国ニッポンを造っている。
そんなことをツラツラと考えているうちに、高速バスは東京駅に着いていた。