河野談話検証を読む 未来志向へ薄氷の「合意」
「究明より誠意狙った」
- 2014/7/6付
- 情報元
- 日本経済新聞 朝刊
報告書は5人の有識者でつくる検討チーム(座長・但木敬一元検事総長)がまとめた。当時、談話の表現の仕方などで日韓がぎりぎりの接点を探っていたことがわかる。
発端は韓国で元慰安婦が名乗り出て東京地裁に提訴した91年。日本は法的な問題は65年の国交正常化時に結んだ請求権協定で解決済みとの立場だが、韓国側は92年1月の宮沢喜一首相の訪韓で懸案にならないよう「訪韓前に官房長官談話の形で立場表明するのも一案」と提案した。盧泰愚大統領との会談で宮沢首相は「事実究明を誠心誠意やりたい」と語った。河野談話ができる1年7カ月前のことだ。
日本が談話作成を準備していた93年4月、韓国側は慰安婦募集の「強制性」をめぐり「仮に『一部に強制性があった』などの限定的表現が使われれば大騒ぎになるだろう」とけん制した。日本の調査では無理やり連れ去る「強制連行」を確認できる資料が見つかっていない。日本側は「歴史的事実を曲げた結論を出せない」と伝えつつ、5月には「『強制性』などの認識は一言一句というわけにはいかないものの、韓国側とやりとりしたい」と歩み寄った。
韓国側の要請を受け、93年7月に日本側による元慰安婦16人への聞き取り調査が実現する。報告書は「事実究明よりも日本政府の真摯な姿勢を示すことに意図があり、結果の裏付け調査や他の証言との比較は行われなかった」と指摘した。聞き取りを終える前に河野談話の原案ができていたことも明らかにした。当時の日本政府が外交配慮や政治決着を優先した事情を示す。
河野談話は宮沢首相と金泳三大統領が了承して完成。慰安婦の募集について旧日本軍の要請を受けた業者があたったと軍の間接的な関与を認めた。募集、移送、管理なども「総じて本人たちの意思に反して行われた」とした。
談話発表日の記者会見で、河野長官は「強制連行の事実があったという認識なのか」という問いに「そういう事実があったと。結構だ」と答えた。報告書は、韓国側とのやりとりで否定し続けた「強制連行」の認定が河野氏の独断だったことをにじませた。
報告書を貫いているのは、日韓両政府が国交正常化後に表面化した問題に区切りをつけ、未来志向の関係を築こうとした共通認識だ。「ハト派」の政治家とされた宮沢首相のもとで日本は韓国の意向もくみながら懸案にあたった。
検証は当時の談話発表後に元慰安婦に「償い金」を支払うための「アジア女性基金」の設立経緯にも触れる2部構成とした。菅義偉官房長官は「『日本が何もしていない』と流布されている。この問題への日本の取り組みをつまびらかにする必要がある」と語った。安倍政権は今回の検証結果後も河野談話を継承する方針を明らかにしている。
▼河野談話 宮沢内閣時代の1993年、河野洋平官房長官が戦時中の従軍慰安婦問題に関し政府の調査をもとに発表した談話。慰安所の設置や管理、慰安婦の移送について旧日本軍の直接・間接の関与を認めた。慰安婦の募集も「官憲等が直接加担したこともあった」「甘言、強圧によるなど総じて本人たちの意思に反して行われた」と強制性を認定。「心からのおわびと反省の気持ち」を表明した。
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