愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

LOVER.COME.BACK.TO.ME

2012年10月02日 10時50分58秒 | 

部屋の模様替えをした。
永年放置してあったLPプレイヤーをアンプにつなぎ、
書斎のラックからアルバムを一枚とりだした。
別に何が聞きたいわけではなかったので、たまたま手に触った一枚。
ビリー・ホリデイ/奇妙な果実
25年ぶりに聞く。
有名なジャズボーカリストだ。
泣き叫ぶような声が僕の心を叩く。
A面の最後の曲に差しかかった。
「LOVER.COME BACK TO ME」
彼女と別れた後、寂しさを紛らわすために、この曲が入ったアルバムを買ったのだった。
僕は待った。
この曲を聴きながら。
彼女が帰ってくるのを。
だが、
結局彼女は帰っては来なかった。
風の噂で金沢に嫁に行ったと聞いた。
僕が彼女を忘れるのに何年かかっただろう。
あれ以来、幾人かの女性が僕の前を通り過ぎた。
でも、彼女のことを忘れたことは結局できなかった。
きっと、今は大きな子供がいて、僕のことなどとうに忘れ去っているのだろう。
女は強い。きっぱり過去の男を忘れ去ることができる。
男は弱い。いつまでも過去を引きずる。
ビリー・ホリデイが歌う。
LOVER.COME BACK TO ME
20何年もの昔の思い出がよみがえる。
当時流行ったフージョンをボリューム一杯にかけながら走った渚のドライブウェイ。
朝焼けを捕まえようと400ccのバイクで走った夜中の国道。
そして、毎週通ったジャズ喫茶。
想い出の中の彼女は歳をとらない。
引き出しの奥から、二人写った写真を取り出す。
セピア色に変わったプリントの中で彼女が笑っている。
僕も笑っている。
でも、あの日、彼女は泣いていた。
「さよなら」といいながら。
人は変わる。
でも、変わらないものもある。
今、確かに、僕の心に、彼女は帰ってきている。
MY LOVER HAS COME BACK TO MY HEART.
曲が終わった。
僕は静かに、針を戻す。そうすることで、時を戻せるかのように。

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