一人のバス旅
帰り道
窓際の席
事故渋滞でテールライトの長い列ができている
デジカメを取り出して、窓越しに撮してみる
雨上がりでにじんだ窓は、ファインダー越しに見ると
幻想的にうつる
赤、黄、青
光の帯が踊っている
「ねえ、なに撮ってらっしゃるの?」
隣席の女の子が聞いてくる
好みのタイプだ
今まで声掛けれずにいた
「テールライトだよ」
「見せてくださる?」
僕はデジカメのスイッチを押して、今撮った画像を彼女に見せる
「うわあ、こんなに綺麗に写るのね。お仕事はなに?」
「写真家だよ。こんな写真ばっかり撮ってる写真家」
「私も撮ってくださる?」
「うーん、人物はとらない主義だけど、君・・」
「鈴よ。前川鈴」
「僕は山田直樹。鈴さんなら撮ってもいいかな。但しバスの中はだめだ」
「どこならいいの?」
「バスの降り場の近くにクリスマスツリーがある。そこならいい」
バスは薄暗がりの時間に着いた
これなら僕の嫌いなストロボをたかずにすむ
きらきら光るクリスマスツリーの前で鈴はいろんなポーズをとり、
僕は10枚ほどシャッターを切った
「この写真、プリントするよ。いつ渡せばいい?」
「そうね、12/24・・今五時ね。五時はいかが?ここで。彼女とデートかしら」
「いや、別れたばかりでね。今年のイヴは寂しくなるなと思ってたんだ」
「あら、同じね。私傷心旅行に行ってたの」
僕らは携帯番号やメールアドレスを敢えて教えあわずにいた
この出会いが運命ならば、約束のイヴに必ず会えると信じていたから
僕は彼女の写真とテールライトの写真をDPEで焼いてもらった
当日、鈴は遅れずにやってきた。
とても着飾って
そしてどこに行こうかという僕の言葉を遮って、言った
「もう一度撮って。
クリスマスイヴにプロの写真家さんにツリーの前で撮ってもらえるなんて滅多にないことだわ」
僕はツリーとテールライト、そして鈴を一つの絵のように撮った
いろんな光の色がにじんでいた
そして、その中心に鈴はいた
遠くから鈴の音が聞こえてきた
そして車のテールライトは長く続いていた