愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

テールライト

2016年12月18日 01時40分35秒 | 

一人のバス旅
帰り道
窓際の席
事故渋滞でテールライトの長い列ができている

デジカメを取り出して、窓越しに撮してみる
雨上がりでにじんだ窓は、ファインダー越しに見ると
幻想的にうつる

赤、黄、青
光の帯が踊っている

「ねえ、なに撮ってらっしゃるの?」

隣席の女の子が聞いてくる
好みのタイプだ
今まで声掛けれずにいた

「テールライトだよ」

「見せてくださる?」

僕はデジカメのスイッチを押して、今撮った画像を彼女に見せる

「うわあ、こんなに綺麗に写るのね。お仕事はなに?」

「写真家だよ。こんな写真ばっかり撮ってる写真家」

「私も撮ってくださる?」

「うーん、人物はとらない主義だけど、君・・」

「鈴よ。前川鈴」

「僕は山田直樹。鈴さんなら撮ってもいいかな。但しバスの中はだめだ」

「どこならいいの?」

「バスの降り場の近くにクリスマスツリーがある。そこならいい」

バスは薄暗がりの時間に着いた
これなら僕の嫌いなストロボをたかずにすむ

きらきら光るクリスマスツリーの前で鈴はいろんなポーズをとり、
僕は10枚ほどシャッターを切った

「この写真、プリントするよ。いつ渡せばいい?」

「そうね、12/24・・今五時ね。五時はいかが?ここで。彼女とデートかしら」

「いや、別れたばかりでね。今年のイヴは寂しくなるなと思ってたんだ」

「あら、同じね。私傷心旅行に行ってたの」

僕らは携帯番号やメールアドレスを敢えて教えあわずにいた
この出会いが運命ならば、約束のイヴに必ず会えると信じていたから

僕は彼女の写真とテールライトの写真をDPEで焼いてもらった

当日、鈴は遅れずにやってきた。
とても着飾って

そしてどこに行こうかという僕の言葉を遮って、言った

「もう一度撮って。
クリスマスイヴにプロの写真家さんにツリーの前で撮ってもらえるなんて滅多にないことだわ」

僕はツリーとテールライト、そして鈴を一つの絵のように撮った

いろんな光の色がにじんでいた
そして、その中心に鈴はいた


遠くから鈴の音が聞こえてきた

そして車のテールライトは長く続いていた


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