まるで初夏のような日差しに目がくらんだと思うと
僕は横たわっていた
気がつくと 傍らで可愛い女の子がハンカチに水を浸し
僕の首筋と脇の下に当ててくれていた
「熱中症ね 救急車を呼ぶまでもないわ 私看護師なの」
彼女の言うとおり しばらくすると起きあがれた
「無理しちゃだめ」
言葉通り僕は目の前が真っ白になった
「ほらね もうしばらくそうしてなさい これを飲んで」
彼女はスポーツドリンクを差し出し 僕はそれを飲んだ
連休明けに美術館に行った帰りの公園だった
「ねえ もうしばらくって いつまでだい?」
「私がいいって言うまで」
「仕事があるんじゃないの?」
「夜勤明けだから大丈夫よ」
「ありがとう 感謝ついでに名前を聞いていいかな」
「花よ 木内花」
「僕は山内透 みんな とおるって呼んでる
ねえ もう起きあがってもいいかな」
「いいわ ゆっくりとね」
「お礼がしたいんだけど」
「あら 気を遣わなくてもいいのよ そのハンカチも安物だし」
「これは洗って返すよ じゃあ お礼はそのときに
次に会えるのいつかな」
「3日後ね 5時にここへくるわ」
彼女はまっすぐ去っていった
僕は30分前から待っていた
何故か 彼女が来ない気はしなかった
果たして 彼女はやってきた
5時ちょうどに
「おまたせ どこへ連れて行ってくださるの?」
「おなか減ってる?いいレストランがあるんだけど」
「いいわ 食事にしましょう 私もおなかぺこぺこよ」
僕は新しくできたビルのインドレストランに彼女を案内した
注文の前に僕は彼女のハンカチを返した
そして奮発して買ったハンカチも渡した
「わお いいハンカチね ありがとう でも どうしてまたハンカチなの?」
「古いのはこれから使うからさ」
カレーが運ばれてきた
インドのパン ナンが添えられてあった
「知ってると思うけど ナンは手でちぎって食べるんだ
油が塗ってあるから手が汚れる」
「そうか それで古いハンカチの登場なんだ」
僕たちは彼女のハンカチで手を拭きながらナンをカレーに浸して食べた
食事が終わったとき彼女は聞いた
「このハンカチは誰が持って帰るの?」
「もちろん僕さ 花さんにまた会える口実ができる」
「花でいいわ
「分かりました このハンカチ 持って帰ってくださいな」
僕は無言でハンカチを受け取り そして言った
「人質を受け取ったぞ これでもう君は僕のものだ 次の約束いつにしようか」