ライトアップされ幻想的な庭
圓徳院(えんとくいん)は、祇園から産寧坂・清水寺に向かうメインの観光ルート「ねねの道」をはさんで高台寺の向かいにあります。高台寺の塔頭で、高台院(ねね)の屋敷がありました。
名勝指定の「北庭」は、高台寺の庭とは対照的にコンパクトで、石の使い方が見応えがあります。方丈にある長谷川等伯の障壁画のレプリカは、彼の出世作となった “珍品”です。高台寺とのセット券もあります。ぜひ一緒に拝観をおすすめします。
圓徳院のねねの屋敷は、伏見城でねねが使っていた「化粧御殿」を移築したものです。寺の建物として建てられたものではないこともあり、寺というより大名の別荘という趣を醸し出しています。
創建当時から残る方丈は、ねねの兄で備中(岡山県)足守藩主の木下家定が、ねねを警護するために建てました。家定没後に所領を没収されていた子・利房は、大坂の陣の際にここでねねの行動を監視していたとされ、その功で大坂の陣後に所領を回復されています。その後方丈は木下家の菩提寺となり、利房の院号に因んで「圓徳院」と名付けられました。
化粧御殿はねねの死の直前に利房が譲り受けました。後に高台寺に移築されましたが、幕末の動乱で焼失しています。現在、北庭に面する「北書院」は化粧御殿の跡地に建てられたものです。
「北書院」と「方丈」の間には、拝観料不要でねねの道から石塀小路に通り抜けできる「ねねの小径」があります。さすがに同じ敷地の建物ではねねにはばかられたのでしょう、ねねのいた化粧御殿と木下家屋敷の方丈との境界の名残と考えられます。
高台院は化粧御殿で余生を過ごしたと知られていますが、実際は本邸から通って高台寺や近隣の豊国神社で菩提を弔う時の滞在や、時の文化人が集まるサロンの場として使われていたとする説が現代では有力です。
本邸は、聚楽第破却後に豊臣家の京都本邸として使われていたもので、現在の京都御苑内にありました。現存する仙洞御所は、高台院没後に徳川幕府がこの京都本邸を破却し、後水尾上皇のために造営したものです。
北庭は、当時「石組みの名手」とされた庭師・賢庭(けんてい)が作庭し、後に小堀遠州が手を加えたとされます。賢庭は醍醐寺・三宝院庭園の作庭でも知られており、豪壮かつ優雅な石組みは三宝院庭園との共通点を感じさせます。
しかし圓徳院・北庭は三宝院よりもずっとコンパクトです。回遊式ではありませんが、縁側の間近で石組みを鑑賞できることが、他にあまりないこの庭の魅力になっています。北庭は夜間拝観時にライトアップされます。様々な色の光が使われ、とても幻想的です。現代の庭との向き合い方として、とても斬新です。
【公式サイトの画像】 北庭
方丈では、長谷川等伯の襖絵が必見です。展示されているのは高精細複製画ですが、ほとんどの人はレプリカと言われなければ気づかないほど、リアル感が再現されています。日本画では難しかった常設展示ニーズに応えられる見事な技術です。
この絵は、元は大徳寺の塔頭・三玄院にあったもので、幕末の混乱で圓徳院に移されました。
七尾から京に出てきたものの、名前が売れず等伯は苦しんでいました。そこで実績を造ろうと、当代一流の名僧で茶人でもあった春屋宗園(しゅんおくそうえん)に、住職をしていた三玄院の襖絵を書かせてほしいと依頼します。宗園は「修行の場に絵は不要」と相手にせず、等伯は奇策を思いつきます。
宗園が留守の間に押しかけ、止めようとする雲水を振り切って36面の襖絵を一気に描いたのです。宗園は激怒しますが、あまりの出来栄えに等伯を許し、絵もそのままにしました。この出来事が等伯の名を一気に有名にしたのです。
実際にこの絵は、桐の紋をあしらい色のついた襖紙の上に書かれています。通常はもちろん無地の白色の紙に書くため、かえってこの逸話の信憑性を高めています。作品としても白い桐の紋が降る雪のように見せているものがあります。他ではまず見られない“珍品”であり、国宝・松林図屏風を彷彿とさせる松の幽玄さが見事な作品です。
【公式サイトの画像】 方丈の襖絵
寺の裏の石塀小路は、祇園の花街で遊んだ大人たちが人目を忍んでやってくるような雰囲気を醸し出しています。実に“京都らしさ”を味わえます。こちらもぜひ。
美しい外灯
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんあります。
京都市観光大使としても活躍した著者が高台寺の魅力を深堀り
高台寺 圓徳院
http://www.kodaiji.com/entoku-in/idx.shtml
原則休館日:なし
夜間拝観:毎年(春)3月上旬~5月上旬(夏)8月初旬~中旬(秋)10月中旬~12月上旬、大晦日
※仏像や建物は、公開期間が限られている場合があります。
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