とても上質な空間で庭と向かう
建仁寺の塔頭の一つ・正伝永源院(しょうでんえいげんいん)で、春の定期公開が間もなく始まります。
正伝永源院は江戸時代初期の茶人・織田有楽斎(おだうらくさい)と、細川家にゆかりのある寺です。歴史の荒波にもまれながらも現代に美しい境内を伝えています。春にはツツジの華やかな赤い花が庭を彩り、明るい春の京都の庭を楽しむことができます。とても手入れが行き届いた、気持ちの良いお寺です。
正伝永源院と、少し長いと感じる寺名には理由があります。幕末までは正伝院と永源庵で別々の塔頭でした。正伝院は鎌倉時代の創建の後、応仁の乱で荒廃していましたが、大坂の陣の終了後に織田有楽斎によって再興されました。
織田有楽斎は信長の実弟で、豊臣家に出仕しながら茶人として名をはせた人物です。大坂の陣では豊臣家内で穏健派として戦いを避けようとしましたが、願いかなわず大坂城を退去し、京都で隠居します。国宝茶室の「如庵(じょあん)」はこの際建てられたものです。
明治の廃仏毀釈で手放さざるを得なくなります。オーナーの交代に伴って幾度も移築されましたが、現在は名鉄犬山ホテルにあります。
永源庵は南北朝時代の創建で、室町時代には熊本藩主につながる細川家の菩提寺の一つになっています。永源庵は幕末には無住になっており、廃仏毀釈で廃寺となります。正伝院は敷地を上納させられたため、永源庵の跡地で存続を図ります。
この際に細川侯爵家の意向もあって両塔頭が合併し、永源庵の名を残します。これが現在の正伝永源院です。
赤いツツジとソテツが絶妙のバランス
庭園はコンパクトですが、木々の緑にあふれています。春は新緑から出るイオンが庭の酸素をおいしくします。明るい陽光は葉の表面を見事に輝かせています。庭に向かって座る室内空間はとても上質です。細川侯爵家の格式をきちんと維持していることを感じさせます。
庭には赤いツツジと木々の緑のコントラストが見事です。一般的な禅宗庭園とは異なり、花が多い一方で白砂や置石は目立ちません。主に植物の形状や色で、禅寺としての世界観を表現しているところに見応えがあります。
ツツジの奥にはさりげなくソテツが植えられています。ソテツは江戸時代初期に流行し、大名が競って島津家から譲り受けていました。江戸時代からあったかは確認できていませんが、どこか細川侯爵家の存在感を感じさせます。
特別公開期間中は、細川元首相が納めた襖絵が公開されます。狩野山楽による襖絵や織田有楽斎の肖像画が公開されることもあります。こちらも上質な室内空間にとてもよく合う作品です。
【公式サイトの画像】 細川護熙「襖絵」
【公式サイトの画像】 狩野山楽「襖絵」「織田長益(有楽斎)像」
京都の塔頭寺院には優れた庭や美術作品を所有するところがとてもたくさんあります。しかし常時公開しているところは多くありません。春と秋は定期・不定期にかかわらず、特別公開がよく行われる時期です。著名寺院と比べて知名度が低いため混雑も少ないです。春は塔頭がおすすめです。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
武人としての人生を選択しなかった信長の弟の生き様とは?
正伝永源院(建仁寺塔頭)
http://www.shoden-eigenin.com/
2018年春の特別公開:2018年4月10日(火)〜5月6日(日)
特別公開期間中の原則休館日:なし
※仏像や建物は、公開期間が限られている場合があります。
※この寺は観光目的では常時公開されていません。公開は毎年春(4月頃)と秋(11月頃)の定期・特別公開時に限られます。
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