兵庫県の西南部、姫路を中心とする旧:播磨国エリアには、国宝がある名刹が点在しています。姫路市の北東部・加西(かさい)市にある一乗寺(いちじょうじ)は、播磨を代表する名刹の一つです。
- 国宝の三重塔は平安末期の建築、上に行くほど屋根が小さくなり、多宝塔を見るようにとても優美
- 伽藍は山の斜面に4段に分けて設けられており、三重塔は本堂から見下ろす方が美しい
- 境内は桜と紅葉の名所、季節を愛でる散策路としても素晴らしい
播磨は日本でも有数の早くから仏教文化が栄えた地域です。ドライブや自然散策を兼ねて休日を楽しむには、桜と新緑の季節は最適です。
本堂から見下ろす三重塔
一乗寺は、飛鳥時代に天竺(インド)から雲に乗って飛来してきた法道(ほうどう)仙人が開いたと伝えられています。法道仙人は常に鉢を持っていたことから空鉢(くはつ)仙人とも呼ばれます。法道仙人による開基伝説は播磨地方の寺の多くに伝わっていることから、信仰をリードしたひとかどの人物が実在した可能性は高いと思われます。
法道仙人は、祇園精舎の守護神である牛頭天王(ごずてんのう)と共に日本に渡ってきたとされます。牛頭天王は姫路市にある広峯神社(ひろみねじんじゃ)に加え、京都・八坂神社の祭神になります。現在も両神社は祇園社の総本宮を互いに主張しています。
法道仙人伝説は、修験道の開祖とされる役小角(えんのおづの)伝説とよく似ています。飛鳥時代の日本の宗教文化にひとかどの足跡をのこした人物の逸話に、”尾ひれがついて”現在に伝わっているのでしょう。
本尊の聖観音銅像は白鳳時代の作であり、法道仙人伝説はさておき、何らかの堂宇が奈良時代以前から存在していた可能性が考えられます。国宝の三重塔は、のこされた銘から平安時代末期の1171(承安元)年の建立とわかっています。西国三十三所の札所にも選定されていることから、平安時代には現在地で伽藍が整備され、観音霊場として寺勢を誇っていたと考えられます。
境内入口から上段へ上る石段
国宝の三重塔は境内入口から上に2段目にあります。石段を上ると三重塔の屋根裏の組物が見えてきます。木の質感には、800年以上の時を経たとは思えないほどの鮮やかさがのこっています。
一つ上の本堂がある段に上る石段からは、三重塔の屋根のラインがとても繊細な曲線を描いている様子がよくわかります。最も大きい最下層の屋根は、翼を目一杯広げた鳥のように優雅に見えます。上段ほど屋根が小さくなるのが目立つため、多宝塔のような女性的な美しさも感じさせます。本堂からじっくりと三重塔を眺めてください。最も塔を美しく感じるアングルです。
重要文化財の本堂は大悲閣(だいひかく)とも呼ばれ、現在の建物は1628(寛永5)年に姫路藩主の援助で再建されたものです。斜面にせり出した懸造(かけづくり)で、舞台からは三重塔の優美な姿と背後の山々の絶景をのぞむことができます。参拝者が祈りをささげる外陣はかなり大きく、江戸時代に相当の参拝者が見込まれていたことがわかります。
外陣の天井には参拝者が打ち付けたおびただしい数の木札が見えます。現代では文化財保護の観点から参拝した寺社に千社札を張る習慣はなくなりましたが、日本人の巡礼行動パターンは江戸時代から変わっていないとつくづく感じました。
本尊の聖観音銅像は数十年に一度程度しか公開されない秘仏です。白鳳仏の中性的な美しさが備わっており、重要文化財に指定されています。前立本尊があり、宝物館で拝観することができます。
三重の塔から見下ろす常行堂
宝物館の拝観は事前予約が必要ですが、春秋の1日ずつだけ予約なしで拝観できる日があります。一乗寺は、国宝の聖徳太子と天台宗の高僧の肖像画「聖徳太子及び天台高僧像10幅」も所蔵していますが。奈良国立博物館ほかに寄託されているため、宝物館では拝観できません。平安時代の彩色がよくのこり、天台高僧の面影を伝える肖像画が10幅もまとまって伝わっていることに稀有の価値があります。
境内に至る県道も桜が美しい
一乗寺の近辺には、車なら一日で回れる範囲に国宝建造物が点在しています。姫路城のほか、加古川市の鶴林寺・本堂/太子堂、小野市の浄土寺・阿弥陀堂、加東市の朝光寺・本堂です。播磨は国宝の宝庫なのです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
兵庫県や大阪にも古刹はたくさんあります
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一乗寺(兵庫県加西市)
【加西市観光協会サイト】一乗寺
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:8:00~17:00
※この寺・堂宇は観光目的で常時公開されています。
※公開期間が限られている仏像や建物・美術品があります。
※宝物館は毎年4/24と11/5の2日間のみ公開されます。それ以外の日の拝観は事前予約が必要です。
◆おすすめ交通機関◆
JR神戸線「姫路」駅下車、北口から神姫バスに乗り換え「法華山一乗寺」下車、徒歩1分
山陽道「加古川北」ICから車で5分
JR神戸線「宝殿」駅から車で15分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:2時間
大阪駅→JR神戸線→姫路駅→北口14番バスのりば→神姫バス「社」行→法華山一乗寺
※バスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることを強くおすすめします。
※この施設には有料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約を強くおすすめします。
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