琵琶湖を美しく望める三井寺(みいでら)で、めったに公開されない日本三不動の一つ・国宝の黄不動尊を拝観できる法儀が10日間だけ行われました。黄不動と仏縁を結ぶ儀式を受けた者だけが、黄不動のみならず、こちらもめったに公開されない国宝の中尊大師・御骨大師像を拝観できます。
法儀はとても厳粛です。冥加料金は決して安価とは言えませんが、法儀を受けた者だけが秘仏の国宝を拝観できるというプランには納得できます。この素晴らしいプラン体験をレポートしたいと思います。
今年2018年は、三井寺が札所になっている日本最古の巡礼コース「西国三十三所」が定められて1,300年になります。この節目を記念して2016年から2020年までの5年間、各札所で秘仏の特別公開など様々な行事が行われています。三井寺・黄不動のように著名な非公開美術品が公開されることもあります。
来年2019年秋には醍醐寺・三宝院で快慶作の弥勒菩薩や醍醐棚のある奥宸殿が公開される目玉イベントも予定されています。
【公式サイト】 西国三十三所 草創1300年
三井寺は秘仏が多いことでも知られています。中でも、代々の寺のトップですら見たことがなく、文化財指定の前提となる調査もできず、写真や模写画像すらない、金堂本尊の弥勒菩薩像がその筆頭です。笑い話ではないですが、”本当に存在しているのか”という指摘を否定できません。
奈良・東大寺・二月堂の大観音&小観音、長野・善光寺の阿弥陀如来、東京・浅草寺の聖観音と並んで、日本を代表する誰も見たことがない”摩訶不思議”な絶対秘仏です。
日本には、権力を握る実在の人物や尊敬を集める神仏を象徴する姿をあえて見せないことで、神格化させる文化があります。近年はこうした概念も、公開することで収益を上げられ、文化財保護費用に充当できるという実体経済に即して緩和する傾向が見られます。最後の牙城ともいえるこれら絶対秘仏が今後公開されていくのか、注目しています。
法儀が行われる三井寺で最も聖なる「唐院」
黄不動は絶対秘仏のように過去に公開されたことがないわけではなく、調査もきちんとされており、国宝に指定されています。
黄不動拝観の前提となる法儀・結縁灌頂(けちえんかんじょう)を受けるためには事前予約が必要です。予約時間に受付を訪れ、冥加料金一万円を納めます。法儀を受け秘仏を鑑賞できるこの金額の妥当感は個々人の判断によります。
2018年現在、著名な美術品の鑑賞は世界的に事前予約者が優先される傾向にあります。単純先着順だとあまりに殺到しすぎて待ち時間が極端に長くなり、鑑賞時間もごく短時間になってしまうためです。本当に見たい人に限ってゆったりと鑑賞できる環境を作るには合理的な方法だと思えます。
受付場所から法儀会場の唐院・灌頂堂までは先導の僧に合わせて大日如来の真言を唱え続けながらゆっくりと進みます。法儀に向けて心を落ち着ける効果があると感じます。灌頂堂に到着して以降の法儀の内容は”他言無用”と定められていますので、ここでは説明を控えます。平安時代に端を発する密教の厳粛な法儀であり、ここでしか体験できない厳粛な瞬間であったことだけは間違いありません。
法儀の後は大師堂に進み、天台寺門宗の開祖である智証大師円珍の肖像である国宝の中尊大師・御骨大師像の二体の木像を拝観します。両像とも円珍の特徴であるおでこが広く卵型の頭頂の姿で造立されており、双子が並んでいるように見えます。いずれお平安時代の作ですが保存状態が良く、造立当時の姿がそのまま体験できるのではと感じられます。
センターの中尊大師は毎年10/29の円珍の命日に開扉されますが、向かって左側の御骨大師は定期公開されません。向かって右側の、絵画の黄不動を模刻した重文・不動明王立像も定期公開されない秘仏です。模刻ですが、鎌倉時代のリアル表現が見事に活かされており、本家の絵画以上の存在感を感じさせます。
続いて黄不動像を展示した別間に移動します。御簾をくぐってお会いした黄不動像は、像以外の光背や足元に一切の描写はなくとても荘厳でした。人間の煩悩を焼き尽くす不動明王だけを究極に浮かび上がらせるよう描いています。
肌の色は黄色みがかっていますが、人肌に近い色に見えることもあり、青不動・赤不動に比べて実際の人間を思わせるリアル感が目立ちます。曼殊院に伝わる模写の国宝・黄不動像に比べても、シンプルな表現がより荘厳な印象を与えます。
赤青黄の三不動の内、公開機会が最も限られているのが三井寺の黄不動ですが、私としてはこの機会で三不動すべての実物にお会いすることができました。三像とも日本の仏教美術が誇る傑作であることは間違いありません。三像ともお会いした時には自然と腰の前で手を合わせる威厳があります。絶品は観る者に不思議なオーラを発しているのです。
三井寺は、京都・奈良の著名寺院を上回る日本でもトップクラスの仏教美術を所蔵しています。その究極が黄不動です。さらには金堂本尊の弥勒菩薩像がありますが、飛鳥時代以来1,000年以上開帳したことがない歴史の事実をいつだれが突破するか、三井寺の決断を末永く待ちたいものです。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
黄不動の迫力を見事に複製
園城寺(三井寺)
智証大師第五代天台座主1150年慶讃、西国三十三所草創1300年
日本三不動 国宝 黄不動尊 特別開扉
結縁灌頂会
【寺による拝観・法儀公式PDF】
会期:2018年10月5日(金)~14日(日)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~11:30、13:30~16:00(要予約)
※結縁灌頂会への参加は事前予約が必要です。
※この特別公開は定期的に行われるものではありません。
園城寺(三井寺)
【公式サイト】http://www.shiga-miidera.or.jp
【寺による観光公式サイト】http://miidera1200.jp/
◆おすすめ交通機関◆
京阪石山坂本線「三井寺」駅下車徒歩10分、「大津市役所前」駅下車徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
京都駅→JR湖西線→大津京駅→京阪石山坂本線→大津市役所前駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には有料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。
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