京都の祇園周辺と並んで日本を代表する花街である金沢のひがし茶屋街に、重要文化財のお茶屋・志摩(しま)があります。日本の花街建築で重文に指定されているのは、京都の角屋(すみや)と金沢の志摩だけでしょう。
上流階級の旦那衆と芸妓(げいぎ、げいこ)たちが粋を競った非日常空間が見事にのこされています。ここは遊郭ではなくお茶屋です。日本の冠たる金沢文化を育ててきた特別な場所です。
志摩の外観
日本の伝統的な歓楽街を現在は花街(かがい)と呼ぶのが一般的ですが、金沢では茶屋街(ちゃやがい)と呼ぶようです。伝統的な歓楽街の名称は地域によって異なることが多いです。
金沢には茶屋街が、ひがし/にし/主計町(かずえまち)の3か所現存しています。かつては日本の主要都市に数多くありましたが、江戸時代の趣を今でも伝えるのは金沢や京都など限られた都市だけになっています。金沢・京都とも第二次大戦の空襲にほとんどあっていないことが大きいと思われます。
重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に指定されているひがし茶屋街と主計町は、いずれも道路の無電柱化が行われています。空がとてもすっきりして見えます。二階建てで高さが揃えられた建物の趣と相まって、いにしえの情緒を感じられる大きな要因になっています。
金沢は全国でも有数の無電柱化に力を入れている都市です。私が歩いた印象としても、主な観光地では京都よりはるかに無電柱化が進んでいると感じます。
志摩の重文の建物は、1820(文政3)年に金沢藩によって現在地に茶屋街が集約された際の建築です。客が遊ぶ部屋は2Fに3部屋あります。それぞれ床の間を背にして客が座る部屋の正面には「ひかえの間」があり、芸妓たちの準備が整うと襖が開いて宴が始まるという、映画でもよく見かける造りです。
【公式サイトの画像】 前座敷
【公式サイトの画像】 ひかえの間
【公式サイトの画像】 はなれ
客間の一つ「前座敷」は、とても上質な紅殻(ベンガラ)色の壁が印象的です。現代人でも天井が低いと感じません。江戸時代の人にとってはさぞかしゆとりのある空間だったでしょう。謡曲や俳諧で粋を楽しむのにふさわしいしつらえです。
別の客間「はなれ」は、緑色の壁で数寄屋風です。客の好みや遊興の内容に応じて使い分けたのでしょう。遊興の中でも特に茶の湯に合うようなしつらえです。
襖にはすだれがはめられている
訪れたのは夏でしたので、日除けや風通しのためのすだれが各所で目に入り、心地よい風流を感じました。実際に炎天下の道路上よりもかなり気温が低いと感じます。京都の町屋で見かけるのと同じ生活の知恵です。
1Fの庭
庭もとても涼しげに案じました。青々とした苔には水が充分にいきわたっており、瑞々しさがあふれています。季節に応じた草花の手入れがなされているそうです。いつ訪れても目を楽しませてくれそうです。
ひがし茶屋街
花街でも客が饗宴する場所を提供する業態(お茶屋、揚屋)として同じ京都・島原の角屋(すみや)より建物はコンパクトですが、旦那衆が最高レベルの粋を芸妓と競った空間の趣は、同様に見事にのこされています。ベンガラ色の壁がとても上質に見えるのも同じです。どちらの空間に軍配を上げるは見る方それぞれです。
室内は写真撮影が可能ですが、一眼レフはNGです。ただし大きな荷物はコインリッカーに入れる必要があります。小さなカバンでも壁や襖を傷つけてしまいます。和室空間を鑑賞する際は、他でも同様の配慮が必要です。
玄関には女優の杏(あん)が館内で撮影した旅行キャンペーンのポスターが飾られていました。杏の写真のように、確かに和服や浴衣が志摩にはよく合います。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
芸者とはどのような職業なのか?
金沢ひがし茶屋街 志摩
【公式サイト】http://www.ochaya-shima.com/
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~18:00
※小さい手荷物以外はコインロッカーに預ける必要があります。
※一眼レフのような大型のカメラは室内写真撮影に使用できません。
※靴を脱いで室内を見学します。床汚れ防止のため、裸足の場合は靴下を持参しましょう。
おすすめ交通機関:
北鉄/JR/周遊バス「橋場町」バス停下車、徒歩5分
JR金沢駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15~20分
金沢駅兼六園口7番(北鉄/周遊)、4番(JR)バスのりば→北鉄/JR/周遊バス→橋場町
金沢駅まで
東京駅から北陸新幹線で2時間30分
大阪駅から在来線特急で2時間30分
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。
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