南禅寺は京都でも有数の自然景観が美しいお寺ですが、その境内を実に奥ゆかしい赤レンガのアーチが横切っています。京都らしい景観として最も有名であろう「水路閣」です。
テレビドラマのロケ地として一躍有名になり、現在も京都有数のインスタ映えスポットとして大人気です。全国に明治の香りを今に伝える赤レンガの建造物は数多くありますが、自然の緑と絶妙に調和している景観はここが日本一でしょう。
造られてから130年、現在も現役の水路として使われており、京都の街の近代化に果たした役割は計り知れません。現代では京都を代表する名所として観光産業に貢献しており、京都市民にとってはかけがえのない存在です。
そんな立役者が造られた明治時代の様子から探ってみたいと思います。
水路閣は通称で、正式には琵琶湖疎水分線と言います。琵琶湖疎水は琵琶湖の三井寺付近から山科~蹴上~岡崎を通って鴨川にそそぐ人工の水路です。明治になって都が東京に移り、都市の活力を失っていたことを憂いた第3代京都府知事・北垣国道(きたがきくにみち)が、灌漑・上水道・水運・水車動力を目的に計画し、1890年(明治23年)に完成しました。
南禅寺は明治の廃仏毀釈時に大きく境内を縮小させています。その南禅寺の境内跡地に工場を作り、疎水分線の水車動力で稼働させる計画でしたが、途中で水車動力ではなく水力発電に計画が変更されます。1891年に完成した日本初の営業用水力発電所は、1895年に日本初の電気鉄道の開業につながり、京都の街を大いに活気づけます。
なお工場となる予定だった広大な南禅寺の境内跡地は、高級別荘地として分譲されることになります。至極の空間として名高い南禅寺界隈別荘群となって今に至っています。琵琶湖疎水の水は別荘に供給され、庭園を潤しています。常時公開されている無鄰菴で聞くことができる極上の水の音もその一つです。
なお疎水分線は北に向かって流れ、その沿道は京都有数の観光名所「哲学の道」になっています。琵琶湖疎水は現代にかけがえのない観光資源をここにも残しているのです。
水路閣の下の橋脚のアーチ
水路閣の建設の際は景観破壊の危惧の声もあったようですが、最終的には南禅寺は受け入れます。寺が苦難の時期にあって、大変な決断だったでしょう。建設時点から京都市民の関心を大いに集め、見物人で大変な賑わいだったようです。
現代人はほとんどの人が水路閣の景観を美しいと感じますが、明治の人はどう感じたのでしょうか。時間が許せば記録をたどってみたいと思います。
水路閣はどの角度から見ても実に絵になります。南禅寺境内から見上げる、橋脚の下からアーチの連続を見る、南禅院の高台から見下ろす、どれも極上の景観です。春の桜・初夏の新緑・秋の紅葉に代表されるように、季節に応じた自然の色彩がその景観をさらに引き締めます。
地下鉄蹴上駅近くの「ねじりまんぼ」
地下鉄蹴上駅から南禅寺水路閣に向かうには、琵琶湖疎水をくぐり抜けます。そのトンネルが有名な「ねじりまんぼ」です。土木建築ファンにはたまらないようです。明治時代の煉瓦で造られたトンネルによくみられ、強度を増すために煉瓦をらせん状に積んだものです。「まんぼ」とはトンネルの別称です。
臨済宗の寺院では最高格式の南禅寺に、人工の構造物が造られたこと自体、時代が大きく変わったことを明治の京都人に大いに印象付けたことでしょう。今となってはその人工の構造物が、南禅寺の美しさをさらに高めています。結果論になりますが、「さすがは南禅寺」とエールを送りたいと思います。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
五木寛之は南禅寺に何を感じたのか?
南禅寺 疎水
http://www.nanzen.net/keidai_sosui.html
京都市上下水道局 琵琶湖疎水
http://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000006469.html
※水路閣の拝観・見学に条件はありません。いつでも無料で拝観・見学できます。
おすすめ交通機関:地下鉄東西線蹴上駅下車、徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→蹴上駅
公式サイトのアクセス案内
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