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巻物/掛軸/屏風、表具はとても日本的で繊細な調度品:美術鑑賞用語のおはなし

2018年03月30日 | 美術鑑賞用語のおはなし




日本や中国美術を鑑賞していると、表具(ひょうぐ)を頻繁に目にしていることになります。布や紙などを張って調度品として仕立てたものです。絵画や書など絵や文字を書いて表すものはほとんど、表具の上に張り付けられています。目に見える表面を整えることに因んだのか、とても和風なネーミングだと思います。それぞれの歴史や役割について整理してみます。


1)表具の種類と表具師の仕事

表具を「仕立てる」とは、布や紙に書いた絵や書を、鑑賞や保管に便利なように台紙に張ったり、木枠にはめたりすることです。西洋絵画や現代絵画を、作品に見合った額縁やマットを選んでセットする作業に該当します。作品の見栄えをよくする目的もあって、表具を仕立てることを「表装(ひょうそう)する」とも言います。

日本・中国美術の鑑賞では様々な表具をよく目にします。

  • 巻物(まきもの):横長の紙に書いた絵や書をロール状に仕立てる、丸めて保管する
  • 掛軸(かけじく):コンパクトな絵や書を主に床の間にかけて鑑賞できるよう仕立てる、丸めて保管する
  • 屏風(びょうぶ):複数枚に渡って絵や書を書いたパネルを横方向に連結する、折りたたんで保管する
  • 衝立(ついたて):絵や書を書いた1枚のパネルを自立させる
  • 襖(ふすま)  :室内を仕切る建具

表装を職業としている人を「表具師(ひょうぐし)」または「経師(きょうじ)」と言います。表具の新調と修理以外にも、襖や障子の張替えも行っています。現代でももちろん存続している職業です。襖は部屋を仕切るため「建具」に該当しますが、仕事は表具師が担っていました。そのため襖は表具と認識されているのが一般的です。

【Wikipediaへのリンク】 表具



2)巻物

巻物は「巻子本(かんすぼん)」と呼ばれることもあります。本の原始的な形態でもあり、世界中でみられます。近世になって現在のように綴じる「冊子」が登場すると取って代わられます。絵巻物や経典など、日本美術を伝えるかけがえのない媒体として現在も愛されています。

絵巻物は、物語の中のシーンを表す絵とその解説文を、時間の経過にあわせて描いたものです。文字が縦書きなので必ず右から左に進みます。コンテンツは、小説・説話・寺社の縁起・高僧の伝記・戦記など様々ありますが、著名歌人の作品を集めた歌仙集のようにストーリー性がないものもあります。

奈良時代に経典の内容を絵と文章で表した「絵因果経」が、最古の絵巻物と考えられています。1,200年以上たって現存していることには驚愕します。その後平安時代から鎌倉時代にかけて日本美術を代表するような傑作が多く遺されます。伴大納言絵巻や信貴山縁起絵巻などです。

江戸時代になっても土佐派・住吉派ら、当時の宮廷絵師が古典文学を絵巻にした制作例は見られます。しかし中世の傑作の存在が偉大すぎるのか、存在感が大きくないことも事実です。

絵巻物の中には分割して額や掛軸に表装されたものもあります。保存のために分割されたものは「源氏物語絵巻」、売却のために分割されたものは「佐竹本三十六歌仙」がよく知られています。

【Wikipediaへのリンク】 巻物

【Wikipediaへのリンク】 絵巻物


3)掛軸

日本には元来、紙や布に書いた絵や書を飾る際に、額装して壁にかける習慣はありません。額装は幕末に開国してから入ってきた展示方法です。額装に該当する展示方法は「掛軸」でしょう。

西洋絵画は壁があるところにはどこにも額をかけますが、額縁は床の間や茶室など、主人の思いを客人や家族に伝える場にほぼ限られます。かける場所が限られているため大きさも限られます。季節はもちろん、客の趣味や客を迎える日の天候や時間によって、かける額縁を変えたりします。

そのため多数の掛軸の所持が必要になり、移動や保管に便利なように巻物にしたのでしょうか。西洋文化では考えられない繊細なもてなしです。

絵を掛軸で展示する方法は、飛鳥時代には中国からもたらされていたと考えられています。仏教の布教のために仏画をかけていました。室町時代には、流行の唐物として水墨画をかけるようになります。安土桃山時代には茶の湯文化の隆盛により、客人をもてなす調度品としてすっかり定着します。

掛軸には一定のストーリーで複数の書画を表装し、セットにしたものもあります。「対幅(ついふく)」と呼ばれます。「幅(ふく)」は掛軸の数を数える単位で、月毎12か月の連作ならば「十二幅対」と呼びます。

掛軸の取り扱いには細心の注意が必要です。かけるために伸ばす・しまうために丸める、いずれもゆっくり柔らかに行わないと、中の絵を傷つけます。展示や撤収の際にわざわざ二人で行うのは、この伸ばす・丸める作業を慎重に行うためです。

保管の際は桐(きり)箱に収納します。桐は高級箪笥の素材として知られているように、軽い・湿気を通しにくい・虫が近づかない・燃えにくいという特徴があります。湿度や虫に弱い紙や着物などを保管する素材としてとても適しているのです。

【Wikipediaへのリンク】 掛軸


4)屏風

屏風は、中国で室内の風よけとして使われていた調度品で、飛鳥時代には日本に伝わっていたと考えられています。正倉院の宝物として著名な「鳥毛立女屏風」は日本に現存する最古の屏風ですが、現代で言う衝立のように複数枚の連結ではなく一枚のパネルでした。

平安時代には寝殿造の室内で間仕切りとして使われていましたが、書院造に建築様式が変化していくと間仕切りとしての目的よりも空間を彩る調度品としての役割が増します。こうして複数枚のパネルを連結して横長の壮大な絵を描く形態が、室町時代に定着します。平安時代初期の建具で唯一残った屏風は、現代でもハレの日の調度品・美術品として愛されています。


六曲一双(東京国立博物館蔵:狩野長信筆 花下遊楽図屏風)

六曲一隻(東京国立博物館蔵:住吉具慶筆 観桜図屏風)

屏風の大きさとして「何枚のパネルで構成されているか」が説明されます。屏風の数え方にもなります。現存が多く、最もよく目にするのは「六曲一双」です。「曲(きょく)」とは連結される前の一枚一枚のパネルを数える単位です。「双(そう)」とは漢字の意味の通りペアを数える単位です。

複数枚連結した1組の屏風を数える単位を「隻(せき)」といい、6枚連結の屏風が2隻で一対のペアをなしているのが六曲一双です。6枚連結の屏風が1隻だけの作品は「六曲一隻」と呼びます。1隻に連結する曲(扇)の数は6が多いですが、2/4/8もあります。奇数は聞いたことがありません。なお曲ではなく「扇(せん)」と数える場合もあります。

【Wikipediaへのリンク】 屏風


5)衝立

衝立は、屏風よりも歴史のある室内の間仕切り・風よけのための調度品です。屏風のようにパネルが連結されていないため、手軽な間仕切り・目隠し・置物として現在でも和風旅館や座敷のある飲食店でよく目にします。

【Wikipediaへのリンク】 衝立

 


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