四国・香川県の金刀比羅宮、通称:こんぴらさんは、海上交通の守り神である金刀比羅神社の総本宮としてよく知られています。境内に多くの建物が並んでいますが、その中に日本の近代洋画の先駆者・高橋由一(たかはしゆいち)作品を展示する高橋由一館があります。
- 1879(明治12)年、脂ののっていた高橋由一から金刀比羅宮が35点を一括購入
- 由一作品は、同年金刀比羅宮で行われた琴平山博覧会で展示された
- 由一の実直な描写からは、本格的な油絵を日本で広めようとした情熱が伝わってくる
由一の代表作「花魁」「鮭」の描写に通じる名品が揃っています。こんぴらさんに、これだけまとまって由一作品がのこされているとは驚きです。
桜馬場、高橋由一館はこの先
西洋風の構図の取り方や描き方で描く「洋画」は、江戸時代半ばの18cに蘭学の一分野として輸入されたものです。芸術というよりも博物学のスケッチを行う技法という位置づけでした。蘭学者・平賀源内が秋田藩士・小田野直武(おだのなおたけ)に教えた洋画の技法は、秋田蘭画を経て司馬江漢(しばこうかん)や亜欧堂田善(あおうどうでんぜん)に引き継がれます。
彼らは遠近法や影を描いて立体感を表現する西洋風の描き方をしますが、日本絵具を用いていました。江戸時代にはこの”西洋風絵画”は、絵画手法として一世風靡することはありませんでした。幕末から明治初めにかけて西洋人が油絵具をもたらします。
不透明な絵具でモチーフをはっきりと表現できる、油絵の先駆者となったのが1828(文政11)年生まれの高橋由一と、1855(安政2)年生まれの五姓田義松(ごせだよしまつ)です。
1861(文久元)年に来日していたイギリス人新聞記者で、日本のマンガの原点とも言われる新聞挿絵をもたらしたチャールズ・ワーグマン(Charles Wirgman)は由一と義松に洋画の技法を教えます。二人は入手が容易でなかった貴重な油絵具を用いて少しずつ洋画作品を描き始めます。
【東京藝大公式サイトの画像】 五姓田義松「自画像」
【東京藝大公式サイトの画像】 高橋由一「花魁」
東京藝大が所蔵する五姓田義松「自画像」は、1868(明治元)年の作品です。日本人画家が描いた現存する最も古い油絵かもしれません。高橋由一の代表作として重文になっている「花魁」よりも4年早い作品です。両作品とも激動の時代を生きた人物を、日本画に比べ圧倒的に生命感にあふれた表現をしています。油絵のなせる業です。
二人は1876年(明治9年)にお雇い外国人で、日本で初めて本格的な美術教育を行ったイタリア人画家・アントニオ・フォンタネージ(Antonio Fontanesi)にも学びます。二人は本物の油絵との接触機会がとにかく早かったのです。
こんぴらさんは今も昔も海の安全の神
由一は1873(明治6)年に画塾・天絵舎を創設し、独自に油絵を広めようとします。1879(明治12)年に金刀比羅宮で行われた琴平山博覧会に向けて琴平に滞在し、35点の油絵を奉納します。画塾の活動資金を得るとともに、日本人がまだ見たことのなかった油絵の表現を博覧会で大々的に紹介しようと努めます。
現在の高橋由一館では27点が常設展示されています。
【金刀比羅宮公式サイトの画像】 「豆腐」
「豆腐」は、豆腐や揚げの質感が見事に表現されています。モチーフの選択自体にも驚きますが、輝くように明るい素材の色彩表現が何より目を引きます。
【金刀比羅宮公式サイトの画像】 「鯛」
「鯛」は写真のようにリアルな表現で、うろこの質感表現は油絵ならではです。明治初期にこの絵を見た人が圧倒されるようなシーンが目に浮かんできます。
【金刀比羅宮公式サイトの画像】 「琴陵宥常像」
「琴陵宥常像」は由一がいた当時の宮司の肖像です。永らく行方不明になっていましたが2001年に発見され話題になりました。モデルの一瞬の表情をとらえており、とても臨場感があります。代表作「花魁」のように強いオーラを発する作品です。
【東京藝大公式サイトの画像】 高橋由一「鮭」
教科書でもおなじみの由一の代表作「鮭」は、1877(明治10)年頃の作品で、一連の金刀比羅宮にのこした作品のほんの少し前に描かれたと考えられます。金刀比羅宮の作品も「鮭」に負けるとも劣らないとても生命感のある作品が揃っています。
とても昭和なJR琴平駅
金刀比羅宮は神社としては近世以降の名品を比較的多く所蔵しています。次回は金刀比羅宮のもう一つの目玉コレクション、円山応挙の障壁画をお伝えします。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
由一と芳崖、同い年の二人が切り開いた日本の近代美術
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金刀比羅宮
高橋由一館
【神社公式サイト】 高橋由一館
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:8:30~16:30
※この施設は、コレクションの常設展示を行っています。
◆おすすめ交通機関◆
JR土讃線「琴平」駅下車、ことでん琴平線「琴電琴平」駅下車、徒歩20~30分
※約400段の石段を昇る必要があります。クルマで境内には行けません。
※琴電琴平駅の方がJR琴平駅より200mほど金刀比羅宮に近くなります。
JR琴平駅まで、JR岡山駅から在来線特急で60分、JR高松駅から在来線普通で65分、
JR岡山駅まで山陽新幹線で新大阪駅から45分、東京駅から3時間20分
琴電琴平駅まで、高松築港駅から60分
【公式サイト】 アクセス案内
※鉄道は本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には有料の駐車場があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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