小林誠容疑者のように実刑確定後、収容前に行方不明になる者は「遁刑(とんけい)者」と呼ばれる。裁判所が保釈を広く認める傾向を強め、これまで許可してこなかった暴力団関係者や薬物常習者なども保釈するようになったため、出頭に応じなかったり、逃走したりするケースが増えている。収容現場の負担は増す一方、担当する検察事務官らの人手不足は深刻で、対応に苦慮しているのが現状だという。
検察関係者によると、近年、1審判決前に保釈された被告は、実刑判決を受けても控訴すれば2審で再び保釈が認められるケースが大半だという。
2審で保釈された場合、判決時に出廷する必要はないため、実刑が確定し、出頭要請に応じないケースは自宅などに収容に出向く必要があり、「粗暴犯や薬物常習者などが対象の場合、抵抗されたり、逃走されたりするリスクが以前より高くなっている」という。
小林容疑者は、1審段階で保釈され、実刑判決後に保釈が取り消されたものの、控訴した後に再保釈が認められており、まさにこのケースに当たる。
全国の地裁、簡裁が保釈を許可する割合は平成20年の14・4%から29年には31・3%と10年間で倍増している。保釈後、実刑が確定した者の大半は服役するが、法務省によると、逃走するなどして収容されていない遁刑者は30年末で全国に26人いる。
裁判所が、保釈を広く認める背景にあるのが、容疑者や被告が否認すると勾留が長期化する日本の刑事司法制度を揶揄(やゆ)した「人質司法」からの脱却だ。日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)の事件でも海外から批判され、従来の基準を覆してまでも保釈を許可したことで、裁判所のスタンスが鮮明になった。
東京高裁が取り消したものの、妻を殺害したとして懲役11年の実刑判決を受けた講談社元編集次長の被告を東京地裁が判決から21日後に保釈決定するなど、強行犯被告にも保釈を拡大する動きがある。
遁刑者を含め、実刑確定者の収容業務を担当するのは各地検の検察事務官らだ。まず書面や電話で本人に出頭を要請。応じない場合は令状を持って自宅を訪問し、本人を刑務所まで連れて行く。
抵抗する恐れがある場合は、各地検の判断で収容に向かう人数を増やしたり、警察官に同行を要請したりする。保釈率の増加で、収容現場の負担は以前より、大きくなっているという。
だが、長期的な刑法犯認知件数の減少を背景に、検察事務官の数は年々減っている。ある検察幹部は「業務が急増しているのに職員数は減らされる。これは切実な問題だ」と危機感をあらわにする。
別の検察幹部は「今回のような粗暴犯への対応も増えており、体を張って収容するのは検察の仕事だが、刺されてでも連れて来い、というわけにもいかない」と話した。
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