北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向け、安倍晋三首相は11日の内閣改造を機に、首相官邸主導の態勢を強める構えだ。拉致問題担当相は内閣の要の菅義偉官房長官に引き続き兼務させる見通し。さらに、官邸外交を支える国家安全保障局長に、北朝鮮側との極秘接触が伝えられてきた北村滋内閣情報官の抜てきを調整している。
首相は先月26日、先進7カ国首脳会議(G7サミット)後の記者会見の冒頭、G7全首脳から拉致問題で支持を取り付けたとアピール。その上で「あらゆるチャンスを逃さず、果敢に行動していく」と強調した。
首相が拉致問題に前のめりになる背景には、北方領土交渉の停滞がある。首相は昨年9月の自民党総裁選で「戦後日本外交の総決算」を掲げて3選を果たしたが、ロシア側の態度硬化で領土交渉の進展は見通せなくなった。手掛かりがつかめないのは拉致問題も同じだが、「安倍外交で何らかの成果を残すには拉致問題に懸けるしかない」(政府関係者)との事情がある。
改造内閣で留任する方向の菅官房長官は拉致問題の経緯を把握しており、この局面での拉致担当相の兼務の変更は「ないだろう」(政府高官)との見方が大勢。これに加え、官邸主導強化の象徴と目されているのが、警察省出身の北村氏の国家安保局長への起用だ。
初代局長の谷内正太郎氏は元外務事務次官。後任も外務省出身者が就くとみられていただけに、北村氏を充てることには波紋が広がっている。
北村氏は第1次安倍内閣で首相秘書官を務め、首相側近として知られる。外務省による「表ルート」で日朝交渉の突破口が開けない中、北朝鮮統一戦線策略室長とベトナムで昨年7月に極秘接触したと報じられるなど、かねて水面下での交渉の可能性が取り沙汰されている。
首相は改造後の16日、東京都内で開かれる拉致問題の国民大集会に出席し、新態勢で解決を目指す決意を示すとみられる。ただ、政府内では「北朝鮮は米国しか見ていない。この状況が変わらない限り、拉致問題を動かすのは難しい」(外務省関係者)との声も強い。