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後にモームの『雨』を読んでシチュエーションがそっくりだと思ったが、私の記憶は微妙に違う。
授業で習った作品はこんな悪魔的な内容では無かった気がする。
どんな人間もが持つ情念の怖さを、もっと淡々と描いていたようだ。
「この人、いいな。好きだな」と思うところまではセーフで、それ以上進めると危ない。
今まで築いてきた地位も名誉も、つかの間の情熱で木っ端微塵に砕け散る事がある。
そんな人間の危うさを、豊かな自然をバックにして語っていた。
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人生経験を積んだ英語教師は、若さを持て余し情熱のはけ口を探し求める学生に、そっと教えたかったのだろうか?
なのに、クラスの仲間は模範回答なるものを回し読みして、文学の味わいを
何も理解してもいなかったのだ。
ずうっと後で、私がああそうだったのかと思った様に、クラスの誰かもため息をついたかも知れない。